今日は、「スティーブンス・ジョンソン症候群」という病気の話をします。
正式には「皮膚粘膜眼症候群(ひふ・ねんまく・がん・しょうこうぐん)」といいます。皮膚と、粘膜と、目。名前の中に、見るべき場所が3つとも入っています。
はじめにお断りしておきます。この記事は、特定のどなたかの事案の話ではありません。公的な資料に書かれていることを、家庭の言葉に置き換えて説明していきます。
名前の中に「皮膚・粘膜・眼」と入っています(写真はイメージです)
そして、いつもどおりですが——救急隊は診断をしません。傷病名を決めるのは病院です。
先に、3つだけ
- 市販のかぜ薬の箱に入っている紙に、この病名は載っています。国(厚生労働省・PMDA)が「こう書きなさい」と定めた欄があり、そこに症状がそのまま書かれています
- その症状が「高熱,目の充血,目やに,唇のただれ,のどの痛み,皮膚の広範囲の発疹・発赤」——全部、家族が見て分かるものです。検査の数字はひとつも要りません
- 判断のことばは「持続したり,急激に悪化する」。出たかどうかではなく、引かないか、急に悪くなっていないかです
1. 症状——「かぜが治らない」の中身
かぜをひいて、市販のかぜ薬を飲む。数日たっても熱が下がらない。「かぜが長引いている」と思う。ここまでは、誰にでもあることです。
問題は、そこに別のものが足されているときです。
国の通知(あとで原文を出します)が並べている症状は、こうです。
- 高熱
- 目の充血
- 目やに
- 唇のただれ
- のどの痛み
- 皮膚の広範囲の発疹・発赤
かぜと、いちばん見分けにくい並びだと思います。熱もある。のども痛い。かぜでも起こります。
熱が下がらないので、もう一回飲む——この形が続くことがあります(写真はイメージです)
けれど、目の充血と目やに、そして唇のただれ。ここがかぜでは説明がつきにくいところです。
そして最後の一文がこうです。「等が持続したり,急激に悪化する.」
出たかどうかではなく、引かないか、急に悪くなっていないか。これが判断のことばです。
市販のかぜ薬の箱に入っている紙に、この病名は載っています(写真はイメージです)
国の家庭向けリーフレットには、載っていません
消防庁のリーフレット『救急車を上手に使いましょう』(令和7年12月発行)を、私はこの連載で毎回確認しています。今回も全9頁を自分でPDFから検索しました。
- 「発疹」……0件
- 「皮膚」……0件
- 「水ぶくれ」……0件
「じんましん」は2件ありますが、こども(15歳以下)のページにしかなく、しかも欄の中身はこの1項目だけです。
● 虫に刺されて 全身にじんましんが出て、顔色が悪くなった
虫に刺されたときの話です。薬による皮膚の異常は、この冊子には入っていません。
「目」も2件出てきますが、中身は「○丁目○番地」と「交差点など目印になるものを伝えてください。」——住所の説明のほうでした。症状としての「目」は0件です。
これは冊子の欠点ではありません。あれは「救急車を呼ぶか呼ばないか」を決めるためのもので、病名を当てるためのものではないからです。
ただし——国の別のツールは、「風邪をひいた」の中で皮膚を聞いています
ここは、私が最初に見落としていたところです。あとから消防庁の別のものを確認して、書き足しました。
消防庁の全国版救急受診アプリ「Q助(きゅーすけ)」(Web版もあります)の、現行のプロトコル実体を私自身で確認しました。大人の「風邪をひいた」を選んで進むと、7番目にこの質問が出ます。
7.熱が出はじめたころから全身(体の広い範囲)が赤くなっていますか? 〔または〕 発疹(体が赤くなっていたり、蕁麻疹(じんましん)のようにブツブツが出ている)がありますか?
この項目にだけ、受診する科として「内科・皮膚科・救急科」が割り当てられています。「風邪」の中に、皮膚科が入っているわけです。
「はい」を選ぶと次の画面に進み、そこでこう聞かれます。
1.高齢者(65歳以上)ですか? 〔または〕 (女性のみ)妊娠していますか? 2.歩くことができない状態ですか?
どちらかに当てはまれば——
緊急度が高いと思われます。今すぐ119番に電話してください。 いますぐ救急車を呼びましょう
どちらにも当てはまらなくても——
2時間をめやすに病院に行かれたほうが良いでしょう。 できるだけ早めに医療機関を受診しましょう
さらに、大人の「発疹」を選んだ場合には、こういう質問も出てきます。
6.24時間以内に何か薬をのみましたか?
「発疹があって、薬をのんだ」を、国のツールは直接聞いています。
紙のリーフレットには載っていないけれど、Q助には入っている。この落差は、昨日の記事でも同じ形で出てきました。「あの冊子に無い=国が何も言っていない」ではない、ということです。
2. 救急隊が現場で疑うこと
正直に書きます。「熱が下がらない」という通報で呼ばれて、私たちがこの病気を現場で言い当てることは、ほとんどできません。
私たちが現場で見るのは、意識・呼吸・脈・血圧・体温です。皮膚と粘膜は、そのあとに見ます。
それでも、聞くことは決まっています。
- いつから熱が出ているのか
- 何か薬を飲んだか。市販薬も含めて
- いつから飲み始めたか
「市販薬も含めて」を、私たちはわざわざ言います。「薬は飲んでいません」と答える方の多くが、処方薬のことを指しているからです。ドラッグストアで買ったかぜ薬は「薬」に数えられていないことがあります。
そして——服とマスクの下は、見なければ分かりません。「口の中はどうですか」「目は充血していませんか」と、こちらから聞かないと出てこないことがあります。ここは資料に書いてあることではなく、私が現場で感じてきたことです。
救急隊にできるのは、そこまでです。それを決めるのは病院です。
「かぜが治らない」で数日たっていることがあります(写真はイメージです)
3. 病院で行われること
診断は皮膚科の領域です。見て、必要なら皮膚の一部を取って調べます(生検)。そして、原因になった薬を突き止める作業が入ります。
だから、病院に持っていくものが決まっています。
飲んだ薬。箱。中に入っていた紙。お薬手帳。
これは「あったほうがいい」ではなく、国の通知にそう書いてある話です。原文は次の章に出します。
4. 傷病名は「スティーブンス・ジョンソン症候群」でした
ここからが、この記事の柱です。
市販のかぜ薬の箱に入っている紙(添付文書)に何を書くかは、国が決めています。PMDA(医薬品医療機器総合機構)が掲載している『かぜ薬等の添付文書等に記載する使用上の注意について』——令和8年8月25日一部改正の別添、全195頁です。私が自分でPDFを取得して確認しました。
その「1.かぜ薬」の章(PDF 8頁)に、こういう欄があります。
まれに下記の重篤な症状が起こることがある.その場合は直ちに医師の診療を受けること.
その表の中に、この名前があります。
皮膚粘膜眼症候群(スティーブンス・ジョンソン症候群),中毒性表皮壊死融解症,多形紅斑,急性汎発性発疹性膿疱症1)
そして、その右の「症 状」の欄。ここが全部です。
高熱,目の充血,目やに,唇のただれ,のどの痛み,皮膚の広範囲の発疹・発赤,水疱が皮膚の赤い部分にあらわれる,赤くなった皮膚上に小さなブツブツ(小膿疱)が出る,全身がだるい,食欲がない等が持続したり,急激に悪化する.
難しい言葉が、ひとつも入っていません。熱、目、目やに、唇、のど、発疹。全部、家族が見て分かります。
なお、注釈で「多形紅斑」と「水疱が皮膚の赤い部分にあらわれる」は葛根湯を含有する製剤のみに、「急性汎発性発疹性膿疱症」と「赤くなった皮膚上に小さなブツブツ(小膿疱)が出る,全身がだるい,食欲がない」はアセトアミノフェンを含有する製剤のみに書くこと、とされています。製品によって、紙に書いてある文が少しずつ違うのはこのためです。
かぜ薬だけの話ではありません
同じPDFを全195頁検索したところ、皮膚粘膜眼症候群/中毒性表皮壊死融解症が出てくるのは6か所でした。章に直すと、こうなります。
| 章 | PDFの頁 |
|---|---|
| 1.かぜ薬 | 8 |
| 2.解熱鎮痛薬 | 18 |
| 3.鎮咳去痰薬(せき止め・たんの薬) | 25 |
| 9.口腔咽喉薬(トローチ剤) | 163 |
| 10.歯科口腔用薬(歯肉炎,歯槽膿漏等の内服剤) | 165 |
| 12.内服痔疾用薬(痔の飲み薬) | 170 |
のどのトローチにも、歯ぐきの薬にも、この欄があります。
症状の並びは、章が変わってもほとんど同じでした。たとえば鎮咳去痰薬(PDF 25頁)はこうです。
高熱,目の充血,目やに,唇のただれ,のどの痛み,皮膚の広範囲の発疹・発赤等が持続したり,急激に悪化する.
「高熱、目の充血、目やに、唇のただれ、のどの痛み」——この5つは、どの章でも変わりませんでした。覚えるならこの5つです。
なお、解熱鎮痛薬(PDF 18頁)には、すぐ下に「薬剤性過敏症症候群」という別の名前も並んでいます。重い薬の副作用は、ひとつではありません。
「持続したり,急激に悪化する」が判断のことばです(写真はイメージです)
国は、家族向けの冊子も出しています
厚生労働省の『重篤副作用疾患別対応マニュアル スティーヴンス・ジョンソン症候群』という3頁の冊子があります(平成29年6月改定・PMDA掲載)。「A.患者の皆様へ」という章から始まる、家族向けのものです。私が自分でPDFを取得して確認しました。
その冒頭に、この一文があります。
ここでご紹介している副作用は、まれなもので、必ず起こるものではありません。ただ、副作用は気づかずに放置していると重くなり健康に影響を及ぼすことがあるので、早めに「気づいて」対処することが大切です。
「まれなもので、必ず起こるものではありません」。この一語を外して読まないでください。かぜ薬全般をこわがる話ではありません。
そのうえで、こう書かれています。
抗菌薬、解熱消炎鎮痛薬、抗けいれん薬などでみられ、また総合感冒薬(かぜ薬)のような市販の医薬品でもみられることがあるので、何らかのお薬を服用していて、次のような症状がみられた場合には、放置せずに、ただちに医師・薬剤師に連絡してください。
「市販の医薬品でもみられることがある」——国が、はっきりそう書いています。
そして、その「次のような症状」がこれです。添付文書より、2つ多い。
「高熱(38℃以上)」、「目の充血」、「めやに(眼分泌物)」、「まぶたの腫れ」、「目が開けづらい」、「くちびるや陰部のただれ」、「排尿・排便時の痛み」、「のどの痛み」、「皮ふの広い範囲が赤くなる」がみられ、その症状が持続したり、急激に悪くなったりする
「まぶたの腫れ」「目が開けづらい」、そして「陰部のただれ」「排尿・排便時の痛み」。粘膜は、目と口だけではありません。
★目が、先に来ることがあります
同じ冊子に、こう書かれています。ここが今回いちばん重要だと思いました。
また、目の変化は、皮ふなどの粘膜の変化とほぼ同時に、あるいは皮ふの変化より半日もしくは1日程度、先にあらわれ、両目に急性結膜炎(結膜が炎症を起こし、充血・目やに・涙・かゆみ・はれなどが起こる病態)を生じることが知られています。
皮膚より先に、目に出ることがある。しかも両目です。
日本皮膚科学会の『重症多形滲出性紅斑診療ガイドライン』(2016年版)も、同じ向きの数字を出しています。
眼病変を合併する患者のうち,約3 分の2 では半日から数日程度,皮疹や高熱などの全身症状より眼症状が先行し,約3 分の1 では全身症状の出現とほぼ同時に眼症状を自覚している
「発疹が出るまで待つ」では遅い、ということです。
いつ起きるか
原因と考えられる医薬品の服用後2 週間以内に発症することが多く、数日以内あるいは1ヶ月以上経ってから起こることもあります。
「飲んですぐ」ではありません。そして「もう何日も飲んでいるから大丈夫」でもありません。
連絡するときに伝えること
なお、医師・薬剤師に連絡する際には、服用した医薬品の種類、服用からどのくらいたっているのかなどを伝えてください。
薬の名前と、いつから飲んでいるか。この2つです。
5. スティーブンス・ジョンソン症候群とは
名前が3つあって混乱しやすいので、整理します。
- 皮膚粘膜眼症候群——日本の添付文書で使われる正式な呼び方
- スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)——同じもの。人の名前から来ています
- 中毒性表皮壊死融解症(TEN)——同じ流れの、もっと重いほう
添付文書は、この2つを並べて書いています。軽いほうと重いほうが、地続きだからです。難病情報センターも、そう書いています。
大部分の中毒性表皮壊死症はスティーブンス・ジョンソン症候群から進展して生じます。本邦では、水疱、びらんなどで皮膚が剝けた状態が体表面積の10%未満の場合をスティーブンス・ジョンソン症候群、10%以上の場合を中毒性表皮壊死症と診断しています。
「粘膜」というのは、口の中、目の表面、のどのような、皮膚の内側にあたるやわらかい面のことです。だから、目と唇が同時に来る。ここが、ふつうの発疹といちばん違うところです。
「かぜをひいた」→「薬を飲んだ」→「熱が続く」→「目と唇が来た」。この順番が、この病気の形です。
そしてこの2つは、国の指定難病です。難病情報センターで、スティーヴンス・ジョンソン症候群が指定難病38、中毒性表皮壊死症が指定難病39として解説されています。
治ったあとに残るもの
難病情報センターの一般向けページには、後遺症についてこう書かれています。
眼が侵された場合にはまぶたと球結膜の癒着、角膜の潰瘍、視力障害、ドライアイなどの症状が残ることがあります。爪の変形や脱落なども認められます。
目が、いちばん残ります。だからこそ、「両目が赤い」で動く意味があります。
学会は「かぜ薬がきっかけ」を名指ししています
日本皮膚科学会の『重症多形滲出性紅斑診療ガイドライン 補遺2025』(2025年)の CQ7 に、こう書かれています。
重篤な眼合併症を伴うSJS/TEN では,何らかの微生物感染を思わせる感冒様症状があり,それに対する薬剤投与が誘因となって発症していることが多い.
「かぜのような症状があって、それに薬を飲んだ」。——この記事のタイトルそのものが、学会の推奨文の中に書かれていました。
同じ補遺2025には、2016〜2018年の全国調査の結果も載っています。
2016~2018 年の全国調査で死亡が確認されたのは,SJS 患者の4.1%,TEN 患者の29.9% であった
ただし、死亡率の数字は資料によって割れています。難病情報センターの一般向けページは中毒性表皮壊死症を「約30%」、医療従事者向けのページは「約20%」と書いています。ひとつの数字に決めて書けるものではありません。
「直ちに服用を中止し,この文書を持って」と国は書いています(写真はイメージです)
薬の名前と、飲み始めた日をメモしてください(写真はイメージです)
「相談」ではなく「診療」と書かれています(写真はイメージです)
熱をはかるだけで終わらせない、という話でした(写真はイメージです)
「何日も引かない」は、それだけで動く理由になります(写真はイメージです)

