今日は、腸が止まる話をします。傷病名でいうと腸閉塞(イレウス)です。
この記事は、実際にうかがった事案をもとにしています。ただし手元に残っているのは重症・入院となったことと、初診時の傷病名が「腸閉塞」だったことだけです。ご本人の年齢や状況は一切書きません。そこから先は、公的な資料で確かめられることだけを書きます。
「便が出ない」は、便秘とはかぎりません(写真はイメージです)
先に、3つだけ
- 腸閉塞には「詰まる」ものと「動かなくなる」ものがあります。後者は痛みも熱もないことが多いと国の資料に書かれています
- 家族が見られるいちばんの手がかりは、便ではなく「ガス」です
- 消防庁のアプリ「Q助」は、「排ガス」を一度も聞きません
1. 傷病名——「腸閉塞(イレウス)」でした
腸閉塞は、おおまかに2つに分かれます。物理的に詰まるもの(機械的イレウス)と、詰まってはいないのに腸が動かなくなるもの(麻痺性イレウス)です。
後者について、厚生労働省は『重篤副作用疾患別対応マニュアル 麻痺性イレウス』という一冊を出しています。つまり薬で起きることがあるという位置づけです。
腸管の動きが鈍くなる「麻痺性イレウス」は、医薬品の服用によって引き起こされる場合があります。 鼻炎薬、あへん系鎮痛薬、免疫抑制剤、抗精神病薬、鎮痙薬、頻尿・尿失禁治療薬、抗がん薬、α-グルコシダーゼ阻害薬(糖尿病治療薬)などの医薬品でみられることがある (厚生労働省『重篤副作用疾患別対応マニュアル 麻痺性イレウス』A.患者の皆様へ)
鼻炎薬が先頭に来ていることに目を留めてください。処方薬だけの話ではありません。
「痛くない」「熱もない」
同じマニュアルの「麻痺性イレウスとは?」には、家庭向けにとても大事な一文があります。
主な症状として、「お腹がはる」、「著しい便秘」、「腹痛」、「吐き気」、「おう吐」があり、排便、排ガスの停止、腸内のガスの増加などが認められますが、腹部の圧痛や打痛はなく、また発熱は認められないことが多いとされています。麻痺性イレウスは、徐々に症状が現れるため、上記のような病状に気づきにくく、注意が必要です。 (同)
押しても痛くない。熱も出ない。しかもゆっくり進む。——「まだ様子を見ていい」と判断しやすい条件が、そろってしまいます。
「便秘の薬」だけでなく、飲んでいる薬全部が手がかりになります(写真はイメージです)
2. 症状のサイン——見るのは便ではなく「ガス」
厚労省のマニュアルは「排便、排ガスの停止」と、便とガスを並べて書いています。国立がん研究センターの『がん情報サービス』は、もっと踏み込みます。
排便や排ガスが全くない場合は、腸閉塞の前触れの可能性があります。すぐに担当医に相談しましょう。 (国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん 療養」手術後の日常生活)
「前触れ」——詰まりきってからではなく、その手前のサインとして挙げられています。
便は、食べていなければ出ません。だから「何日出ていないか」は、食欲が落ちている人ほどあてになりません。ガスは、食べていなくても出ます。家族が道具なしで確かめられて、「食べていないから」が効かない指標は、これだけです。
張りは、横になっているときのほうが本人に分かります(写真はイメージです)
痛み方でも分かれます
厚労省マニュアルの医療者向けの章に、こうあります。
一般に、麻痺性、閉塞性、絞扼性の順に、症状及び検査所見が激烈であるとされている。 (同 医療関係者向け「4.判別が必要な疾患と判別方法」)
いちばん激しい絞扼性は腸に血が通わなくなるタイプで、緊急手術の対象です(コロナ罹患中の腹部症状の記事に書きました)。
3. 受診の判断——Q助は「ガス」を一度も聞きません
消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」の設問を全274画面調べました。「イレウス」「腸閉塞」「排ガス」「おなら」——この4語は1件も出てきません。
公的な資料が2つとも「排ガスの停止」を挙げているのに、国の受診判断ツールは一度も聞きません。ガスが出ていないことは、自分から言わないと伝わりません。
では、Q助は何を聞くのか
代わりに、「張り」は聞きます。「吐き気・吐いた」を選ぶと、4番目にこれが出ます。
4.おなかがパンパンに張っていますか?
これを選ぶと、結果は「いますぐ救急車を呼びましょう」です。単独で、それだけで救急車になります。
「便秘」を選んだ場合も、2画面目の「吐きましたか? 〔または〕 おなかの張りが強いですか?」に当てはまり、次の画面で65歳以上なら、やはり「いますぐ救急車」です。
「便が出ない」だけでは進みません。「吐いた」か「張っている」が加わったところで、一気に救急車側へ振れます。
「張っている」は、自分で言葉にできるサインです(写真はイメージです)
4. 家族へ
① 何年も前の手術が、原因になります
日本消化器外科学会の市民向けページには、こうあります。
腸閉塞の原因は過去に受けた手術が原因となるものが多く,それ以外には腫瘍による浸潤によって起こる場合があります. (日本消化器外科学会「市民のみなさま」大腸の病気)
問題は「いつまで」です。国立がん研究センター東病院が、年数を書いています。
術後半年から2年後くらいの間に起こることが多いですが、何年も経過してから生じる場合もあります。 (国立がん研究センター東病院 大腸外科「大腸がんの手術について」)
ところがQ助が手術について聞くのは「最近、おなかの手術やけがを経験していますか?」だけです。何十年も前の開腹手術は、どこでも聞かれません。だからこちらから言ってください。「昔、お腹を切っています」の一言です。
② 飲んでいる薬を、全部見せてください
厚労省のマニュアルは、受診時にこう求めています。
受診する際には、服用した医薬品の種類と量、服用からどのくらいたっているのか、症状の種類、程度などを医師に知らせてください。 (同 A.患者の皆様へ)
おくすり手帳がいちばん早いです。市販の鼻炎薬や痛み止めも含めて——マニュアルの筆頭が鼻炎薬でしたから、「病院の薬ではないので」と省かないでください。
③ 伝えるのは、この3つです
- 「ガスが出ていません」——何日前からか
- 「お腹が張っています」——便の回数より、こちらが伝わります
- 「昔、お腹の手術をしています」——何年前でも
迷う段階なら♯7119もあります。呼んだあと「軽症だった」となっても、それは呼ばなくてよかったという意味ではありません。
「ガスは出ていますか」——聞かれなくても、言ってください(写真はイメージです)
食べていなければ便は出ません。でもガスは出ます(写真はイメージです)

