「けいれん=てんかん」とは限りません——だから傷病名は「症候性てんかんの疑い」で止まります

「けいれん=てんかん」とは限りません——だから傷病名は「症候性てんかんの疑い」で止まります

重症・入院となった搬送事案の初診時傷病名は「症候性てんかんの疑い」でした。なぜ「疑い」で止まるのか。てんかん情報センターは、けいれんの原因は「てんかん以外にも循環、代謝、感染、免疫、腫瘍、変性疾患、薬物の影響など」と書き、失神・心因性発作などを名指しで挙げています。そして国立長寿医療研究センターは「本人はそのときのことを覚えていないことが多く」——だから家族の記録と動画が要る、と書いています。現役救急救命士が一次資料の原文で解説します。

今日は、傷病名が「疑い」で止まる理由の話をします。初診時の傷病名は症候性てんかんの疑いでした。

この記事は、実際にうかがった事案をもとにしています。ただし手元に残っているのは重症・入院となったことと、この傷病名だけです。ご本人の年齢や状況は書きません。なおその場で何をするか別の記事にあります。この記事は止まったあとの話です。

明かりの灯った日本家屋の居間 けいれんが止まっても、そこで終わりではありません(写真はイメージです)

先に、3つだけ

  • けいれんは、てんかん以外でも起こります。失神でも低血糖でも起こります
  • 「症候性」とは「原因が別にある」という意味です。大人では古い脳梗塞や頭のけが
  • 本人は、そのときのことを覚えていません。記録できるのは、そばにいた人だけです

1. 傷病名——「症候性てんかんの疑い」でした

てんかんは、大きく2つに分かれます。国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センターが運営するてんかん情報センターの説明です。

てんかんは、その原因から二つの群に分けられます。脳に器質的な変化がない特発性てんかんと、脳に器質的変化をもつ症候性てんかんの二つです。 (てんかん情報センター「第1章 てんかんとはどんな病気か」)

症候性=脳に原因になる変化がある。大人ではどんな変化か。国立長寿医療研究センターの一般向けページです。

その原因となる病気としては色々なものがあり、大人の場合では、古い脳梗塞や脳出血、頭の怪我や、認知症を起こす病気など、とても多様です。 (国立長寿医療研究センター 健康長寿ナビ「それって認知症?「てんかん」かも!?」)

「古い」脳梗塞——何年も前のものが原因になります。「症候性てんかん」と言われたとき、その裏にはもう一つ調べるべき病気があるということです。

壁の時計 「いつ起きて、何分続いたか」は、あとから作れない情報です(写真はイメージです)


2. 症状のサイン——けいれんして見えても、てんかんとは限りません

ここが、いちばんお伝えしたいところです。てんかん情報センターの「はじめてのひきつけ」です。

脳に何らかの一時的な機能異常が起こると、けいれん(ひきつけ)が生じることがあります。てんかん以外にも循環、代謝、感染、免疫、腫瘍、変性疾患、薬物の影響などが原因となります。 (てんかん情報センター Q&A「はじめてのひきつけ」)

同じページは脳腫瘍を「けいれんの原因として忘れてはならないものです」と名指しし、こう続けます。

十分に調べないままてんかんと思いこんで抗てんかん薬を飲み始めてもこれらの疾患の治療にはなりません。

これが「疑い」で止める理由です。決めつけて薬を始めると、本当の原因が治療されないまま残ります。

てんかんに似ているが、てんかんではないもの

第1章には、名前まで並んでいます。

見かけの発作症状はてんかん発作に似ていますが、てんかんに含まれない病気があります。失神発作、アルコールけいれん、心因性発作、憤怒けいれん、夜驚症などで、これらの病気にはてんかんに特有な脳波異常は見られません。

とくに多いのが失神です。

失神はてんかんと間違われやすいものの一つで、てんかん外来を受診する患者さんのうち、てんかんでないと判断される場合の多くは失神を生じる疾患です。 (同 Q&A「てんかん発作と間違われやすい内科疾患」)

しかも失神は「気を失って倒れる」だけではありません。同センターは「もうろうとなり、ふらふらして、倒れてしまいますし、ひどい場合にはけいれんをおこすこともあります」と書いています(失神の事案)。

低血糖も同じです。「インスリン注射をしておられる方も食事とのバランスが崩れると低血糖をおこしてけいれんする可能性があります」(低血糖の事案)。

畳の上に置かれた乾いた花 同じように見える出来事に、いくつもの原因があります(写真はイメージです)


3. 受診の判断——Q助は「てんかんですか」と聞きません

消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」の全274画面を調べました。「てんかん」「癲癇」「失神」——この3語は1件も出てきません。

代わりに大人の「けいれん」を選ぶと10項目が並び、すべてが単独で「いますぐ救急車を呼びましょう」になります。その10番目です。

10.初めてのけいれん(ひきつけ)ですか? 〔または〕 こういうことは初めてですか?

どれにも当てはまらないときだけ次の画面に進み、そこには1問しかありません。

1.けいれん止めの薬を切らしてしまいましたか?

Q助が聞くのは「病名」ではなく、「初めてかどうか」と「薬が続いているか」の2つだけです。持病の名前を言えなくても、この2つには答えられます。

病院の静かな待合 病名を言えなくても、答えられる形になっています(写真はイメージです)


4. 家族へ

① 本人は、覚えていません

本人はそのときのことを覚えていないことが多く、発作があったことに気づいていないことがほとんどです。そのため、御家族や周囲の方の協力が大切です。 (健康長寿ナビ)

診断が何に頼っているかも、はっきり書かれています。

もっとも大切なことは、どのような発作がいつ、どこで、何をしているときにおこったか(中略)診断のほとんどはこの情報に依存しますので、とても重要です。 (てんかん情報センター Q&A「病院を受診するとき、どのような準備が必要ですか?」)

診断のほとんどが、そばにいた人の話に依存している。本人に聞けないからです。

② 動画を撮ってください

同じ健康長寿ナビが、家庭向けに名指しで書いています。

おかしいな、と思う症状がありましたら、ビデオなどの動画を撮っていただくことで、診断や治療の大きな手助けになります。

てんかん情報センターも「患者さんや周囲の人の記録はかけがえのない情報になります」とし、「もし可能であれば録画して、消去しないようにします」とまで書いています。

ただし順番は守ってください。周りの危険物をどけるのが先、記録は次です。

迷う段階なら♯7119もあります。呼んだあと「軽症だった」となっても、それは呼ばなくてよかったという意味ではありません

朝の窓辺 覚えていない本人の代わりに、見ていた人が残します(写真はイメージです)

この記事で書かなかったこと

  • 「高齢者の初めてのけいれんは脳卒中が最多」——順位や割合を書いた日本の一般向け資料はなく、「とても多様です」までしか書けません
  • 心因性非てんかん発作の見分け方——同センターは「症状がそっくりで症状のみでは見分けがつかない方もいます」としています
  • けいれん・てんかんの救急搬送件数——消防庁『救急救助の現況』に集計がありません
  • 「けいれんのないてんかん発作」——高齢者では珍しくないと資料にありますが、別の話になるのでこの記事では扱いませんでした

関連する記事

まとめ

  • けいれんはてんかん以外でも起こります。てんかん情報センターは「循環、代謝、感染、免疫、腫瘍、変性疾患、薬物の影響など」を挙げ、失神・心因性発作を名指しします。だから「疑い」で止まります——「十分に調べないままてんかんと思いこんで抗てんかん薬を飲み始めてもこれらの疾患の治療にはなりません
  • 症候性=原因が別にある。大人では「古い脳梗塞や脳出血、頭の怪我」など。そしてQ助に「てんかん」は0件で、聞かれるのは「初めてか」と「薬を切らしたか」の2つだけです
  • 本人は覚えていません。診断のほとんどはこの情報に依存します」——残せるのは、そばにいた人だけです

メモ帳とペン 「何時に、何分、どんなふうに」——それが診察室で効きます(写真はイメージです)

家庭に置いておきたい備え

ここから先は、記事の内容に関連して家庭に備えておける市販品を紹介しています。治療や診断の代わりになるものではありません。症状があるときは、まず医療機関にご相談ください。

まず、調べられる本を。

この記事の内容に関係する備え。

Amazonのアソシエイトとして、救急のリアルは適格販売により収入を得ています。

参考文献

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

関連記事

「痛くない」「熱もない」——それでも腸は止まります。傷病名は「腸閉塞(イレウス)」でした
事案から学ぶ

「痛くない」「熱もない」——それでも腸は止まります。傷病名は「腸閉塞(イレウス)」でした

続きを読む →
「どこが痛いか、本人に聞けませんでした」——手がかりは3日続いた熱だけ。傷病名は「腎盂腎炎」でした
事案から学ぶ

「どこが痛いか、本人に聞けませんでした」——手がかりは3日続いた熱だけ。傷病名は「腎盂腎炎」でした

続きを読む →
「朝、見にいったら様子がおかしくて」——最後に無事だったのは前の晩。傷病名は「脳梗塞の疑い」でした
事案から学ぶ

「朝、見にいったら様子がおかしくて」——最後に無事だったのは前の晩。傷病名は「脳梗塞の疑い」でした

続きを読む →

記事内容に誤りを発見された場合はこちらからご連絡ください(訂正依頼を選択してください)

🚑

救急のリアル 編集部

現役救命士(匿名)|救急歴20年以上

患者さんとご家族のプライバシーを守るため匿名で運営しています。 内容の正確性については、現役救命士として責任をもってお伝えします。

このブログについて →