突然、目の前で人が倒れたとき。
「心臓マッサージは習ったことがある。でも、AEDってどこにあるんだろう」
「使い方を知らなかったら、触っていいものなの?」
そうした不安の声を、救急の現場でご家族からよく耳にします。
AED(自動体外式除細動器)は、2004年から医療資格のない一般市民でも使用できるようになりました。コンビニや駅、公共施設など、今や街中の多くの場所に置かれています。
でも「どこにあるか知っている」「使い方がわかる」という方は、まだ多くありません。
この記事では、AEDの探し方と5ステップの使い方を、現役救命士の視点でお伝えします。
AEDの知識は、ある日突然、あなたの大切な人の命を守る力になります。
AEDは、知っている人が使えば「命をつなぐ機械」になります
なぜAEDが必要なのか——数字で知る「時間の重み」
まず、AEDがなぜこれほど重要なのかをお伝えします。
日本では毎年、約12万件の院外心停止が発生しています(消防庁 令和4年度統計)。
心臓が突然止まる(心停止)状態では、脳への血流が途絶えます。
心停止から1分が経過するごとに、生存率は7〜10%ずつ低下します(JRC蘇生ガイドライン2020)。
救急車が到着するまでの全国平均時間は、約9.4分(消防庁 令和4年)です。
つまり、救急車が来るまでの間に、周囲の人が何かしなければ、生存の可能性は大きく下がってしまいます。
ここで力を発揮するのが、バイスタンダーCPR(周囲の人による心肺蘇生)とAEDです。
消防庁のデータによると、目撃者がいる心停止において——
- バイスタンダーがCPRを行った場合、行わなかった場合と比べて1か月後の生存率が約2倍になります
- さらにAEDが使用された場合、神経学的に良好な状態で社会復帰できる割合が大きく改善します
「AEDを使えるかどうか」は、実際に命の分かれ目になり得るのです。
街中の至るところに、AEDは置かれています——見つけ方を知っているかどうかがカギです
AEDが置いてある3つの場所
「でも、どこにあるのかわからない」
それが、多くの方が感じる最初の壁です。
覚えておきたい3つのパターンをご紹介します。
場所① 駅・交通機関
鉄道の駅には、ほぼ確実にAEDが設置されています。
設置場所のパターン:
- 改札内の柱や壁(緑色・白色の箱)
- 駅員室・案内カウンター付近
- ホーム上(大型駅では複数台)
新幹線や空港、バスターミナルなど、多くの人が集まる場所ほど設置台数が多い傾向があります。
駅に行ったとき、一度周囲をゆっくり見回してみてください。緑色の「AED」と書かれたマークか、緑の十字マークが目印です。
場所② コンビニエンスストア
大手コンビニ各社は、AEDの設置を積極的に進めています。
特に繁華街・住宅地のコンビニでは、レジ奥や店舗入口付近に設置されていることが多くあります。
コンビニは24時間営業のため、深夜・早朝でもアクセスできるという利点があります。
なお、設置の有無は店舗によって異なります。事前に近所の店舗を確認しておくと安心です。
場所③ 公共施設・商業施設
- 市区町村の役所・公民館・図書館
- 学校・大学(体育館・玄関)
- 病院・クリニック(外来フロア)
- スポーツジム・プール・体育館
- ショッピングモール(フードコート付近、サービスカウンター付近)
- 映画館・ホテルのロビー
法律で設置が義務づけられている施設(学校、スポーツ施設など)も多く、「人が集まる場所」には必ずある、と思っておいて差し支えありません。
AED設置マップアプリを使う
「近くにどこにあるか、すぐに調べたい」という場合に役立つのが、専用のアプリやウェブサービスです。
日本救急医療財団「AEDマップ」
日本救急医療財団が運営する「全国AEDマップ」(https://www.qqzaidan.jp/AED.html)は、全国のAED設置施設を地図上で検索できる公的なサービスです。
スマートフォンのGPS機能と連携させれば、現在地から最寄りのAEDをすぐに探せます。
Google マップ
「AED」と検索するだけで、登録されている施設が表示されます。操作に慣れている方はこちらのほうが使いやすい場合もあります。
「今日、外出先でどこにAEDがあるか」——事前に確認しておくだけで大きく違います
大切なのは「いざというときに探す」のではなく、普段から「ここにある」と知っておくことです。
お子さんやご高齢の家族と一緒に過ごす場所のAED設置場所を、一度確認してみてください。
AEDを実際に使うときの5ステップ
人が突然倒れた場面に遭遇したとき、AEDをどう使えばいいのか。
5つのステップに沿って確認します。
ステップ① 安全を確認して119番・AEDを手配する
まず倒れている方に近づき、肩を軽くたたいて声をかけます。
「大丈夫ですか?」「聞こえますか?」
反応がなければ、すぐに周囲に声をかけて役割を分担してください。
「あなたは119番に電話してください」
「あなたはAEDを持ってきてください」
一人の場合は、まず119番に電話します。電話は繋ぎっぱなしにして、オペレーターの指示を受けながら動いてください。
ステップ② 呼吸を確認する
胸の動きを見ながら、約10秒で呼吸があるか確認します。
普通の呼吸(規則正しい呼吸)がない場合、または「ゼーゼー」「ヒューヒュー」というあえぐような呼吸の場合は、心停止の可能性があります。
このような「死戦期呼吸(しせんきこきゅう)」は、呼吸があるように見えますが、有効な呼吸ではありません。心停止として対応します。
ステップ③ 胸骨圧迫(CPR)を開始する
呼吸がない場合、すぐに胸骨圧迫を開始します。
胸骨圧迫の方法:
- 胸の真ん中(胸骨の下半分)に手のひらの根元を置く
- 両手を重ね、肘をまっすぐに伸ばす
- 体重を乗せて、胸が約5〜6cm沈み込む強さで押す
- 1分間に100〜120回のリズムで繰り返す(「アンパンマンのマーチ」のテンポが目安)
- 圧迫のたびに、胸が完全に戻るのを待つ
「強すぎるかな」と思うくらいの力で大丈夫です。ためらわずに続けてください。
胸骨圧迫は、体重を乗せてしっかり押すのがポイントです
ステップ④ AEDを到着次第、装着する
AEDが届いたら、すぐに使います。
電源を入れると、音声ガイダンスが流れます。画面と音声の指示に従って操作してください。
パッドの貼り方:
- 右の鎖骨の下(右胸上部)に1枚
- 左の脇腹(左胸下部・脇の下あたり)に1枚
イラストが描いてあるので、図の通りに貼ります。
肌が濡れている場合はタオルで拭く、胸毛が多い場合は剃るための剃刀が付属していることがあります。
金属のアクセサリー(ネックレスなど)は外します(もし外せなければ、できる限り離してパッドを貼ります)。
ステップ⑤ 解析→ショック→CPR再開
パッドを装着すると、AEDが自動的に心臓の状態を解析します。
「解析中」と流れたら、その間は全員が患者から離れます。触れたままでいると正確な解析ができません。
解析の結果、電気ショックが必要と判断された場合:
- AEDが「ショックが必要です」と音声で知らせます
- ショックボタンを押す前に「全員、離れてください」と周囲に声をかけます
- 患者から誰も触れていないことを確認してからボタンを押します
ショック後、すぐにCPRを再開します(30回の胸骨圧迫→2回の人工呼吸、または胸骨圧迫のみでも可)。
電気ショックが「不要」と判断された場合も、AEDを装着したままCPRを続けてください。AEDが自動的に再解析してくれます。
救急隊員が到着するまで、CPRとAEDの使用を続けてください。
「触ってはいけない瞬間」を知っておく
AEDを怖いと感じる方の多くが、「誤ってショックを与えてしまったら」と心配しています。
大切なことをお伝えします。
AEDは、電気ショックが必要な状態(心室細動・無脈性心室頻拍)のときにしかショックを与えません。
心停止でない人に使っても、機械が自動的に「不要」と判断してショックは流れません。
ただし、解析中・ショック時には、患者の体に触れないことが唯一のルールです。
これを守れば、誰でも安全に使えます。
家族で役割を決めておく
突然の場面では、パニックになることがあります。
そのときのために、事前に「役割分担」を話し合っておくことをおすすめします。
例えば:
- 「AEDを探しに行くのはお父さん」
- 「119番を押すのはお母さん」
- 「胸骨圧迫をするのは、二人で交代しながら」
ご家族の中で、AEDの場所を知っている人が一人でもいれば、倒れた人を助けられる可能性が大きく上がります。
「もしもの時はこうしよう」——家族で話し合う5分が、命を守る準備になります
「難しそう」と思っていたAEDも、実際には音声ガイダンスが丁寧に案内してくれます。
大切なのは、使えると知っていること、そして場所を知っていること。
その2つを持っているかどうかが、大切な人の命を守れる場面で力になります。
AEDをより深く知りたい方へ——講習のすすめ
AEDの使い方を「知っている」と「実際に体で動ける」は違います。
地域の消防署や日本赤十字社では、AED講習(普通救命講習・応急手当講習)が定期的に開催されています。
所要時間は3時間程度(短縮版は約1.5時間)で、実際に人形を使って胸骨圧迫とAED操作を体験できます。費用は多くの場合、無料または少額です。
- 消防署の救命講習(普通救命講習Ⅰ) :各消防本部が開催(予約制)
- 日本赤十字社の救急法講習 :都道府県支部で開催
「子どもが生まれた」「親が高齢になってきた」と感じたタイミングで、一度受講することをおすすめします。
体で覚えた動きは、緊張した場面でも自然に出てきます。
AEDは「使えない機械」ではありません。音声が案内してくれる、誰でも使える救命の道具です。
「どこにあるか知っている」——ただそれだけのことが、緊急の場面で行動につながります。
今日、帰り道や外出先で、AEDのマークを一つ探してみてください。
そして、ご家族と「AEDがどこにあるか」を話す時間を、ぜひ作ってみてください。
知識があれば、街が違って見えてきます——AEDのマークが「命の地図」になります
参考文献
総務省消防庁「令和4年版 救急・救助の現況」
https://www.fdma.go.jp/publication/rescue/日本蘇生協議会(JRC)「JRC蘇生ガイドライン2020」
https://www.jrc-cpr.org/jrc-guideline-2020/厚生労働省「AEDを点検しましょう!」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/aed/index.html日本救急医療財団「全国AEDマップ」
https://www.qqzaidan.jp/AED.html総務省消防庁「応急手当の普及啓発活動の推進に関する実施要綱(令和4年3月改正)」
https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/items/5d0e308f336ec2a9d69b68312556dbc5265e380d.pdf
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、医療行為・医療診断・治療の指示ではありません。症状がある場合や心配なことがあれば、必ず医療機関を受診してください。緊急の場合は119番に電話してください。


