傷病名は「顔面打撲」でした——固定されていなかったチャイルドシートが、ブレーキだけで足元に落ちた。生後1か月の女児
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傷病名は「顔面打撲」でした——固定されていなかったチャイルドシートが、ブレーキだけで足元に落ちた。生後1か月の女児

事故ではなく、ブレーキだけでした。後部座席に置いていたチャイルドシートが足元に落ち、生後1か月の女児が鼻を負傷。道路交通法はチャイルドシートを「座席に固定して用いる補助装置」と定めています。警察庁とJAFの調査では、乳児用でも取付けがしっかりできていなかった割合は16.2%。現役救急救命士が、警察庁・消防庁の一次資料の原文で解説します。

今日は、チャイルドシートは「座らせる道具」ではなく「車に固定する道具」という話をします。傷病名でいうと顔面打撲。生後1か月の赤ちゃんの事案です。

この記事は、実際にうかがった事案をもとにしています。場所や日付は書きません。救急隊は診断をしません。書く傷病名は、病院で最初につけられたものです。

車の後部座席 起きたのは、事故ではなく、ブレーキをかけた場面でした(写真はイメージです)

先に、3つだけ

  • 道路交通法は、チャイルドシートを「座席に固定して用いる補助装置」と定めています
  • 国の調査で、乳児用でも取付けが「しっかり」でなかったものが16.2%ありました
  • 今回は、衝突ではなく、ブレーキだけで起きました

1. 傷病名——「顔面打撲」。事故ではなく、ブレーキだけでした

通報は、母親でした。

通報内容(原文)

1か月の女児、ブレーキを掛けた際に装着していたチャイルドシートが外れて鼻の外出血があります。泣いている状況です。

記録にある経緯です。自家用車で走行中、後部座席に置いていたチャイルドシートを固定していないことに気付き、駐車場に入ろうとしたところ、チャイルドシートが後部座席の足元に落ち、乗せていた赤ちゃんが鼻を負傷しました。

気付いて、駐車場に入ろうとしていた。その途中の出来事です。責める話ではありません。誰にでも起こりうる場面です。

通報の言葉と、あとから記録された経緯とでは、言い方が違っています。それでかまいません。119番で、正確な説明を求められることはありません。見えたままを伝えれば、あとは電話口と現場で組み立てます。

私たちが着いたときの様子です。

  • 母親に抱かれていて、意識ははっきりしていました
  • 鼻に、幅・長さ約0.2cmの擦りむいたようなきず。出血は自然に止まっていました
  • ほかの部位に、見てわかる外傷はなし
  • 母親の話では、意識を失うことはなく、すぐに泣いていた
  • けいれんはなく、手足も動いていた

病院は1回の問い合わせで決まり、母親が同乗しました。緊急度は「緊急」。結果は帰宅、重症度は軽症、初診時の傷病名は「顔面打撲」でした。

「軽症」は、あとからわかる結果の言葉です。

法律は、チャイルドシートを最初から「固定するもの」と定めています

警察庁のページに、道路交通法第71条の3第3項の条文が載っています。チャイルドシートにあたる「幼児用補助装置」の説明はこうです。

幼児を乗車させる際座席ベルトに代わる機能を果たさせるため座席に固定して用いる補助装置 (警察庁「子供を守るチャイルドシート」、道路交通法第71条の3第3項)

「座席に固定して用いる」までが、定義に入っています。固定は、上手な使い方のコツではなく、はじめから定義の一部だということです。同じページには、「車両への取付け固定が不十分であったり」した場合は「チャイルドシート本来の機能が発揮できないことがあります」ともあります。ただし、書かれているのは交通事故のときの話です。今回は、ブレーキをかけただけで、同じことが起きました。

後部座席のシートベルトの金具 「座席に固定して用いる」——法律の定義は、ここから始まります(写真はイメージです)


2. 症状のサイン——生後1か月は、症状を「答えて」くれません

消防庁の救急受診アプリ「Q助」に、「鼻のけが・鼻血(大人・こども)」の設問があります。12項目あり、どれか当てはまれば結果は「いますぐ救急車を呼びましょう」です。たとえば、こんな設問です。

鼻のけがをしてから、意識がもうろうとしていますか?

正直に書くと、この12項目は生後1か月の赤ちゃんには答えにくいものが多いです。頭痛、吐き気、視力の変化などは、本人が言えません。12項目に「乳児」「赤ちゃん」の語はなく、今回の記録にも、乳児のため訴えと吐き気の有無は不明とあります。

手がかりになるのは、意識がはっきりしているか、すぐに泣いたか、出血が止まったか、きずの大きさです。

消防庁のリーフレット『救急車を上手に使いましょう』のこども(15歳以下)のページには、「生まれて3カ月未満の乳児」という年齢そのものの欄があります。書かれている項目は、次の1つだけです。

乳児の様子がおかしい

MSDマニュアル家庭版の「頭部外傷の概要」には「幼児は単に不機嫌になるだけのこともあります」とあります。ただし、書かれているのは「幼児」です。

たたまれたガーゼの布 生後1か月は、痛いところを言葉にできません(写真はイメージです)


3. 受診の判断——「軽症で帰宅」は、呼ぶ前にはわかりません

鼻から血が出て、赤ちゃんが泣いている。Q助の鼻のけがの12項目は、すべて「いますぐ救急車」に行き着きます。

結果は軽症で、帰宅でした。でもそれは、病院で調べたあとにわかったことです。

迷ったときの窓口も、リーフレットに書かれています。

子ども医療電話相談(主に休日・夜間)は♯8000、119番通報の相談は♯7119をご利用いただけます。 (消防庁『救急車を上手に使いましょう』)

使い分けは♯7119の記事に書きました。ただ、意識がおかしい、乳児の様子がおかしいというときは、電話相談を挟まず119番です。

「様子がおかしい」の見方は、腸重積症の記事とRSウイルスの記事にも書いています。

誰もいない待合の椅子 「軽症」だったとわかるのは、調べたあとです(写真はイメージです)


4. 家族へ——「置く」から「固定する」へ

① 「使っている」と「固定できている」は別です

警察庁とJAFの調査(2026年5月9日〜31日)では、使用率は6歳未満全体で84.0%、1歳未満は94.8%でした。取付け状況の結果はこうです。

  • 取り付けられたチャイルドシートのうち、適切な取付けができていた割合は77.6%(乳児用83.8%、幼児用71.9%)
  • 乳児用210台のうち、しっかり取付けできていなかったのは34台(16.2%)

チェック項目の10番目は「車両シートに置いただけ」です。乳児用のミスユースの内訳(n=38)にも5.3%として載っています。今回と同じ形が、調査の中に実在しています。

② 調査の「ワンポイントアドバイス」が、今回の事案そのものです

チャイルドシートが固定されていないと、万が一の交通事故や急ブレーキの時に思わぬ怪我を負わせてしまう危険性があります。 (警察庁・JAF「チャイルドシート使用状況全国調査(2026)」)

続けて、取付け方も書かれています。

膝などを使って体重をかけ、車の座面にチャイルドシートを沈み込ませて、シートベルトでしっかりと取り付けましょう!

この調査の方法は「取扱説明書に準拠した取付け状況の確認」です。手順は製品と車で違います。必ず取扱説明書のとおりにしてください。ここで手順は書きません。

③ 国の統計でも、「固定」は条件に入っています

警察庁の統計では、「適正使用」の意味が、こう書かれています。

「適正使用」とは、チャイルドシートが車両に適切に固定され、かつ、幼児等がチャイルドシートを適正に使用している場合をいう。 (警察庁「チャイルドシート関連統計(令和7年中)」)

令和3年〜7年の致死率は、適正使用者0.11%に対し、不使用者0.56%。約5.3倍です。

④ 乗せる前に、毎回、目で見る

ここは私の考えです。赤ちゃんを乗せる前に、固定されているかを見る。確かめ方は取扱説明書にあります。取り外したあとは、とくに。家の中の事故は誤飲・誤嚥の記事へ。

白線で区切られた駐車場の路面 乗せる前に、固定されているかを見る(写真はイメージです)

この記事で書かなかったこと

  • その後の経過と病院での検査——記録は、帰宅・軽症・顔面打撲までです
  • 取付けの手順と、走行中に気付いたときの直し方——製品と車で違い、公的な資料にも書かれていません
  • どの製品が安全か——勧めません

まとめ

  • 道路交通法は、チャイルドシートを「座席に固定して用いる補助装置」と定めている
  • 取付けが適切だったのは77.6%。乳児用にも「置いただけ」の例がある
  • 生後3か月未満は症状で見分けにくい。消防庁の欄は「乳児の様子がおかしい」
  • 軽症で帰宅した、は結果。呼ぶ前にはわからない

夕暮れの立体駐車場 駐車場に入る、そのブレーキでも起きます(写真はイメージです)

家庭に置いておきたい備え

ここから先は、記事の内容に関連して家庭に備えておける市販品を紹介しています。治療や診断の代わりになるものではありません。症状があるときは、まず医療機関にご相談ください。

まず、調べられる本を。

この記事の内容に関係する備え。

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参考文献

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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