「脚はむくんでいませんでした」——それでも肺には水がたまっていた。傷病名は「急性心不全(肺水腫)の疑い」でした

「脚はむくんでいませんでした」——それでも肺には水がたまっていた。傷病名は「急性心不全(肺水腫)の疑い」でした

訪問介護の方が、ベッドで苦しそうに息をしている80代の男性を見つけました。透析のためのシャントがあり、心不全と腎臓の病気を抱えていた方です。酸素の値は62%。それなのに、脚のむくみはありませんでした。MSDマニュアル家庭版は、むくみ(右心不全)と肺にたまる水(左心不全)は別の場所に出ると説明し、腎不全が心臓に負担をかける仕組みも書いています。現役救急救命士が一次資料の原文で解説します。

今日は、むくみのない心不全の話をします。傷病名でいうと急性心不全——肺に水がたまる肺水腫の、その疑いです。

この記事は、実際にうかがった事案をもとにしています。年齢は幅で、場所や日付は書きません。救急隊は診断をしません。書く傷病名は、あくまで現場で疑ったものです。

和室の座卓と座布団 見つけたのは、家族ではなく訪問介護の方でした(写真はイメージです)

先に、3つだけ

  • 脚がむくんでいなくても、肺には水がたまることがあります。たまる場所が違うからです
  • 腎臓の働きが落ちると、心臓に負担がかかります。透析を受けている方は、とくに水分の量が大事です
  • 透析の方は、毎日の体重がいちばんの手がかりです

1. 傷病名——疑われたのは「急性心不全(肺水腫)」でした

通報したのは、訪問介護の方でした。いつもの時間に訪ねると、ベッドの上で意識がぼんやりし、苦しそうに肩で息をしていたそうです。いつから、かはわかりません。

80代の男性。心臓の病気、心不全、糖尿病、腎臓の病気があり、左腕には透析のためのシャント(血管をつないだ部分)がありました。

私たちが着いたときの数字です。

  • 呼吸 1分間に30回、努力して吸っている
  • 脈 123回、血圧 132/79
  • SpO2(血液中の酸素)62%
  • 顔色は青白く、手足は冷たい
  • 胸の音を聴くと、両方の肺で湿った音
  • 熱はなし

酸素を投与しても85%までしか上がらず、流量を上げ、最後はバッグで呼吸を手伝いながらお運びしました。

そして、両脚にむくみはありませんでした。

腎臓が悪いと、なぜ心臓に来るのか

『MSDマニュアル家庭版』の「心不全」に、仕組みが書かれています。

腎不全では、腎臓で血流から余分な水分を取り除けなくなることで、心臓がより多くの血液を送り出さなければならなくなるため、心臓に負担が加わります。最終的に心臓が限界を超えると、心不全に至ります。 (MSDマニュアル家庭版「心不全」)

水が抜けない分を、心臓が背負う。透析は、その水を機械で抜く治療です。

円窓のある和室 毎日来る人が、いちばん早く気づけます(写真はイメージです)


2. 症状のサイン——むくみと、肺の水は「別の場所」です

心不全というと、足のむくみを思い浮かべる方が多いと思います。「起き上がると少し楽になる」という事案でも、足のむくみが前兆でした。

ところがMSDは、心臓の右と左で、水のたまる場所が違うと書いています。

右心不全の主な症状は、足、足首、脚、肝臓、腹部に体液がたまって生じる腫れやむくみ(浮腫)です。

左心不全では、肺の内部に体液がたまり、息切れが起こります。 (同)

むくみは右、肺の水は左。今回の方は、脚ではなくにたまっていました。「むくんでいないから心臓は大丈夫」とは言えないということです。

そして、肺に一気に水がたまったときの様子です。

急性肺水腫は、肺に大量の水分が突然蓄積する状態です。ひどい呼吸困難、呼吸数の増加、皮膚が青白くなる変化、気分が落ち着かない感覚、不穏(落ち着かなくなる)、不安、窒息感などが起こります。 (同)

呼吸が速い、顔が青白い——今回の所見と重なります。MSDは高齢者の心不全について「眠気、錯乱、見当識障害などの漠然とした症状」がみられることも書いています。ぼんやりしている、は心臓のサインでもあるのです。

アナログの体重計 むくみより先に、数字に出ることがあります(写真はイメージです)


3. 受診の判断——Q助は「息が苦しそう」を最初に聞きます

消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」は、症状を選ぶ前の最初の質問のひとつがこれです。

ハアハアしますか(ハアハアしていますか)? 息は苦しい(苦しそう)ですか?

「はい」を選ぶと、症状の一覧を飛ばして「息が苦しい」の画面へ直行します。そこには、たとえばこんな項目があり、どれも1つ当てはまれば「いますぐ救急車を呼びましょう」です。

1.急に息苦しくなりましたか? 3.泡状のピンク色 〔または〕 白い痰(たん)がたくさん出ますか? 8.横になると息苦しいですか? 〔または〕 (苦しくて)座らないと息ができませんか?

「苦しそう」と、見ている人の目線で書かれているのが大事なところです。本人がうまく話せなくても、そばにいる人が答えられます。

なお、Q助の全274画面に「透析」「シャント」という語は1件も出てきません。透析を受けていることは、自分から伝えないと拾われない情報です。


4. 家族へ——透析の方は、毎日の体重を見てください

① いちばんの手がかりは体重です

MSD家庭版の「透析」のページに、こう書かれています。

体重増加をモニタリングするには、日々の体重測定が重要です。血液透析を受けてから次回の透析までに体重が過度に増加している場合は、水分のとりすぎと考えられます。通常、水分の過剰摂取は、ナトリウムのとりすぎによりのどが渇くのが原因です。 (MSDマニュアル家庭版「透析」)

むくみは見えないことがあっても、体重は数字で出ます。どれだけ増えたら連絡するかは、必ず主治医と決めておいてください。

目盛りのついた計量カップ 飲んだ量は、目で見える形にしておくと管理しやすくなります(写真はイメージです)

② 訪問する人も、見ていてください

今回気づいたのは訪問介護の方でした。家族が毎日そばにいられるとはかぎりません。「いつもより息が速い」「横になると苦しそう」「ぼんやりしている」——どれかがあれば、それは連絡する理由になります。

③ 救急隊に伝えるのは、この3つです

  • 「透析を受けています」(シャントのある腕も)
  • 「最後の透析はいつだったか」
  • 「いつもの体重と、今日の体重」(わかれば)

腎臓と尿の量の関係は今週の急性腎不全の記事に、息苦しさで疑う別の病気(肺の血管が詰まる)は肺血栓塞栓症の記事に書きました。停電や災害で透析が受けられなくなったときの備えは災害時の在宅医療機器の記事に書きました。迷う段階なら♯7119もあります。

待合の椅子 透析をしている病院かどうかで、運ぶ先も変わります(写真はイメージです)

この記事で書かなかったこと

  • この方の最終的な診断名と、その後の経過——書けるのは現場で疑ったところまでです。心電図の変化から、心臓の血管の病気(急性冠症候群)も同時に疑っていました
  • 「何kg増えたら危ない」という数字——人によって違うため、主治医と決める値です
  • SpO2が何%なら救急車、という線引き——公的な家庭向け資料に、単独の数字の基準はありません

まとめ

  • 腎臓の働きが落ちると、余分な水分を取り除けず、心臓に負担がかかります(MSD「心不全」)
  • むくみ(右心不全)と肺の水(左心不全)は、たまる場所が違う。脚がむくんでいなくても、肺には水がたまることがあります
  • 急性肺水腫では「ひどい呼吸困難、呼吸数の増加、皮膚が青白くなる変化」。高齢者ではぼんやりすることもあります
  • Q助は最初に「息は苦しい(苦しそう)ですか?」と聞き、泡状のピンク色の痰や、横になると苦しいはいますぐ救急車
  • 透析の方は「日々の体重測定が重要」。透析を受けていることは自分から伝えてください

障子の並ぶ和室 毎日同じ時間に量る。それが、いちばん早いサインになります(写真はイメージです)

家庭に置いておきたい備え

ここから先は、記事の内容に関連して家庭に備えておける市販品を紹介しています。治療や診断の代わりになるものではありません。症状があるときは、まず医療機関にご相談ください。

まず、調べられる本を。

この記事の内容に関係する備え。

Amazonのアソシエイトとして、救急のリアルは適格販売により収入を得ています。

参考文献

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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救急のリアル 編集部

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