今日は、むくみのない心不全の話をします。傷病名でいうと急性心不全——肺に水がたまる肺水腫の、その疑いです。
この記事は、実際にうかがった事案をもとにしています。年齢は幅で、場所や日付は書きません。救急隊は診断をしません。書く傷病名は、あくまで現場で疑ったものです。
見つけたのは、家族ではなく訪問介護の方でした(写真はイメージです)
先に、3つだけ
- 脚がむくんでいなくても、肺には水がたまることがあります。たまる場所が違うからです
- 腎臓の働きが落ちると、心臓に負担がかかります。透析を受けている方は、とくに水分の量が大事です
- 透析の方は、毎日の体重がいちばんの手がかりです
1. 傷病名——疑われたのは「急性心不全(肺水腫)」でした
通報したのは、訪問介護の方でした。いつもの時間に訪ねると、ベッドの上で意識がぼんやりし、苦しそうに肩で息をしていたそうです。いつから、かはわかりません。
80代の男性。心臓の病気、心不全、糖尿病、腎臓の病気があり、左腕には透析のためのシャント(血管をつないだ部分)がありました。
私たちが着いたときの数字です。
- 呼吸 1分間に30回、努力して吸っている
- 脈 123回、血圧 132/79
- SpO2(血液中の酸素)62%
- 顔色は青白く、手足は冷たい
- 胸の音を聴くと、両方の肺で湿った音
- 熱はなし
酸素を投与しても85%までしか上がらず、流量を上げ、最後はバッグで呼吸を手伝いながらお運びしました。
そして、両脚にむくみはありませんでした。
腎臓が悪いと、なぜ心臓に来るのか
『MSDマニュアル家庭版』の「心不全」に、仕組みが書かれています。
腎不全では、腎臓で血流から余分な水分を取り除けなくなることで、心臓がより多くの血液を送り出さなければならなくなるため、心臓に負担が加わります。最終的に心臓が限界を超えると、心不全に至ります。 (MSDマニュアル家庭版「心不全」)
水が抜けない分を、心臓が背負う。透析は、その水を機械で抜く治療です。
毎日来る人が、いちばん早く気づけます(写真はイメージです)
2. 症状のサイン——むくみと、肺の水は「別の場所」です
心不全というと、足のむくみを思い浮かべる方が多いと思います。「起き上がると少し楽になる」という事案でも、足のむくみが前兆でした。
ところがMSDは、心臓の右と左で、水のたまる場所が違うと書いています。
右心不全の主な症状は、足、足首、脚、肝臓、腹部に体液がたまって生じる腫れやむくみ(浮腫)です。
左心不全では、肺の内部に体液がたまり、息切れが起こります。 (同)
むくみは右、肺の水は左。今回の方は、脚ではなく肺にたまっていました。「むくんでいないから心臓は大丈夫」とは言えないということです。
そして、肺に一気に水がたまったときの様子です。
急性肺水腫は、肺に大量の水分が突然蓄積する状態です。ひどい呼吸困難、呼吸数の増加、皮膚が青白くなる変化、気分が落ち着かない感覚、不穏(落ち着かなくなる)、不安、窒息感などが起こります。 (同)
呼吸が速い、顔が青白い——今回の所見と重なります。MSDは高齢者の心不全について「眠気、錯乱、見当識障害などの漠然とした症状」がみられることも書いています。ぼんやりしている、は心臓のサインでもあるのです。
むくみより先に、数字に出ることがあります(写真はイメージです)
3. 受診の判断——Q助は「息が苦しそう」を最初に聞きます
消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」は、症状を選ぶ前の最初の質問のひとつがこれです。
ハアハアしますか(ハアハアしていますか)? 息は苦しい(苦しそう)ですか?
「はい」を選ぶと、症状の一覧を飛ばして「息が苦しい」の画面へ直行します。そこには、たとえばこんな項目があり、どれも1つ当てはまれば「いますぐ救急車を呼びましょう」です。
1.急に息苦しくなりましたか? 3.泡状のピンク色 〔または〕 白い痰(たん)がたくさん出ますか? 8.横になると息苦しいですか? 〔または〕 (苦しくて)座らないと息ができませんか?
「苦しそう」と、見ている人の目線で書かれているのが大事なところです。本人がうまく話せなくても、そばにいる人が答えられます。
なお、Q助の全274画面に「透析」「シャント」という語は1件も出てきません。透析を受けていることは、自分から伝えないと拾われない情報です。
飲んだ量は、目で見える形にしておくと管理しやすくなります(写真はイメージです)
透析をしている病院かどうかで、運ぶ先も変わります(写真はイメージです)
毎日同じ時間に量る。それが、いちばん早いサインになります(写真はイメージです)

