今日は、4日間、食事がとれなかったことが入院に変わった事案の話をします。傷病名は糖尿病性ケトアシドーシス——中等症でした。
この記事は、実際にうかがった事案をもとにしています。年齢は幅で、場所や日付は書きません。救急隊は診断をしません。書く傷病名は、搬送先で確定したものです。
4日間、食事がとれていなかったそうです(写真はイメージです)
先に、3つだけ
- 4日間食事がとれず、動けなくなった方の診断は、糖尿病性ケトアシドーシスでした
- 救急隊が観察した意識のレベルは会話のやりとりがかみ合わない状態でした。それでも家族から見れば、普段どおりでした
- 私たちが家族に必ず聞くのは「普段はどうでしたか」という一言です
1. 傷病名——糖尿病性ケトアシドーシスでした
通報したのは姉でした。60代後半の男性。糖尿病の持病があり、既往に脳梗塞がありました。4日間食事がとれていなかったこと、前日までは歩行ができていたが当日から全身の倦怠感で動けなくなったことが分かっています。
私たちが到着したときの所見です。
- 呼吸20回/分、脈拍99回/分、血圧133/86、SpO2 97%、体温37.1℃
- 心電図の波形は洞調律でしたが、ST低下の変化がありました
- 尿失禁あり。頭痛・胸痛・腹痛・めまい・嘔気嘔吐・しびれ・麻痺はなし
数字だけ見れば、呼吸や血圧は大きく崩れていません。それでも本人の意識のレベルは、JCS2・GCS14(Vスコア:会話混乱)——言葉のやりとりがかみ合わない状態でした。
病院への問い合わせは3回。かかりつけを含む2件が「処置困難」でした。覚知から病院収容まで55分、緊急度は準緊急。入院。重症度は中等症。診断は糖尿病性ケトアシドーシス。
当日から動けなくなり、その場で救急車を呼びました(写真はイメージです)
2. 症状のサイン——「意識は普段どおり」という言葉
現場で記録した観察所見の欄には、こう書いてあります。
意識レベルは普段どおりであると家族から聴取する
JCS2・GCS14——会話がかみ合わない状態を、私たちはその場で観察していました。それでも、日ごろから本人を見ている家族には「いつもと同じ」に見えたということです。家族が見誤ったのではなく、その場で見る「意識のレベル」と、日々見ている「普段の様子」は、比べているものが違うのです。
MSDマニュアルは、糖尿病性ケトアシドーシスがどうして起こるかを、こう説明しています。
糖尿病であることが分かっている人で、糖尿病性ケトアシドーシスが発生する主な理由には、以下の2つがあります。 ・インスリンの使用の中止 ・病気による体へのストレス (MSDマニュアル家庭版「糖尿病性ケトアシドーシス」)
病気になると、体はふだんより多くのインスリンを必要とします。十分なインスリンが行き渡らないと、細胞は代わりの手段でエネルギーを作ろうとし、その副産物「ケトン体」が血液を酸性に傾けます。4日間食事がとれなかったこと自体が、体への大きなストレスだったと考えられます。
症状について、MSDはこう書いています。
糖尿病性ケトアシドーシスの最初の症状には、強いのどの渇きと頻尿、体重減少、吐き気、嘔吐、疲労などのほか、(特に小児で)腹痛がみられることもあります。 (同)
医療者向けの資料には、もう一段くわしく書かれています。
嗜眠や傾眠は,より重度の代償不全の症状である。 (MSDマニュアル プロフェッショナル版「糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)」)
「疲労」や「傾眠(うとうとする)」は、資料に載っている症状です。「動けないほどのだるさ」は、体調不良として見過ごされやすい言葉でもあります。
食べられない日が続いたときは、飲めているかどうかも手がかりになります(写真はイメージです)
3. 受診の判断——Q助も「糖尿病」を聞いています
消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」には、「意識がおかしい」という症状の入り口があります。並んでいる確認項目の14番目が、これです。
14.糖尿病がありますか?
「話し方がおかしい」「頭を打った後」「発熱(38℃以上)」などと並ぶ形で、「糖尿病があるかどうか」自体が確認項目です。どれか1つでも当てはまれば、判定は「緊急度が高いと思われます。今すぐ119番に電話してください。」(結果表示「いますぐ救急車を呼びましょう」)です。
Q助は理由までは説明していませんが、糖尿病のある方の「意識がおかしい」は、糖尿病そのものが原因のことがある——それが今回の事案でした。
消防庁のリーフレットにも、おとなのページに「◎その他、いつもと違う場合、様子がおかしい場合」の項目に意識の障害が並び、救急車を呼んでほしい症状として、こう書かれています。
意識がない(返事がない)またはおかしい(もうろうとしている) (総務省消防庁「救急車を上手に使いましょう」)
「もうろうとしている」かどうかは、家族の目には判断が難しい言葉です。今回のように「普段どおり」に見えてしまうこともあります。だからこそ、家族だけで判定を完結させなくていい、というのが資料の前提です。
気づいたことを書き留めておくと、そのまま伝えられます(写真はイメージです)
4. 家族へ——「普段はどうでしたか」に答えられるように
① 私たちが必ず聞くこと
救急隊が家族に確かめるのは、普段の様子と比べてどうか、です。その場の受け答えだけでは、それがいつもと違うのかどうか、私たちには分かりません。同じように「食べられていない日数」も、必ず伝えてほしい情報です。食べられない日をどう過ごすかは、別の記事で詳しく書いています。
② かかりつけでも、断られることがあります
今回、病院への問い合わせは3回。かかりつけを含む2件が「処置困難」でした。かかりつけだから早く決まるとは限りません。受け入れ先を探す時間については、別の記事にまとめています。
③ 「普段の値」を、日ごろから言葉にしておく
意識、食欲、歩き方——「普段はどうか」を答えられることが判断の材料になります。同じ糖尿病でも、意識の異常が今回とは逆の「低血糖」から来ることもあります。
かかりつけでも、すぐに決まらないことがあります(写真はイメージです)
「普段どおりかどうか」は、いつも近くにいる人にしか分かりません(写真はイメージです)

