【震災Day3】避難所・車中泊の熱中症と脱水——真夏の被災地で救命士が見る失敗パターン
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【震災Day3】避難所・車中泊の熱中症と脱水——真夏の被災地で救命士が見る失敗パターン

熊本震度7から5日。真夏の被災地では、熱中症と脱水が「第二の災害」として救急隊の出動を増やします。避難所や車中泊でよく見る失敗パターン、水だけでは危ない理由、具体的な応急処置、119番を呼ぶ判断ラインを、救急救命士の視点でまとめました。

2026年7月28日の熊本震度7から、今日で5日目です。

大きな揺れが来たその日と翌日は、外傷や落下物によるケガで救急要請が集中します。でも、その波が落ち着いた後に、もう一つの「波」が来ます。

熱中症と脱水です。

真夏の7月〜8月に震災が起きると、避難所や車中泊での熱中症は、外傷とは別の深刻な問題になります。現場で搬送していると、「もう少し早く対処できていたら」と感じる事例が、毎年夏の災害後に繰り返されます。

震災シリーズDay3として、今日は「被災地の熱中症・脱水」をテーマに書きます。

気温が異常に高いことを示す温度計。真夏の被災地では熱中症と脱水が第二の災害になる 気温が異常に高い日が続く真夏の被災地。熱中症と脱水は「第二の災害」として搬送を増やす


真夏の被災地が危ない理由

通常、私たちは暑いと感じたらエアコンをつけたり、日陰に入ったりして体を冷やします。

でも被災地では、その「当たり前」が使えなくなります。

  • 避難所にエアコンがないか、台数が足りない
  • 電気が来ていない(Day2で書いた停電問題)
  • 自分だけが涼しくするのを遠慮する雰囲気
  • 水の供給が不安定で、節約してしまう
  • 車中泊で、窓を閉めたまま過ごす

こうした状況が重なると、体が熱をうまく逃せなくなり、熱中症へと進みます。

WBGT(暑さ指数)を意識する

熱中症の危険度は、気温だけでなく、湿度や日射・輻射熱を合わせた**WBGT(湿球黒球温度)**という指標で評価します。WBGTが28℃以上で「警戒」、31℃以上で「厳重警戒」とされます。

環境省の「熱中症予防情報サイト」( https://www.wbgt.env.go.jp/ )では、全国各地のWBGTが毎時間更新されています。避難所にいる方は、スマートフォンでこのサイトを確認しながら、今日の暑さのリスクを把握してください。

砂浜に刺さった温度計と青い空。WBGTは気温だけでなく湿度と日射を合わせた指標で評価する 暑さ指数(WBGT)は気温だけでは測れない。湿度と日射を合わせた総合指標で危険度を判断する


よくある「失敗パターン」3つ

救急救命士として被災地対応に関わる中で、同じような状況が繰り返されることがあります。架空の事案ではなく、一般的な傾向として3つまとめます。

パターン① 高齢者の「水分節約」による脱水

高齢者は、もともと体の水分量が少なく、のどの渇きを感じにくいという特性があります。

さらに被災地では、「トイレが遠い」「ポリタンクが重くて水を取りに行けない」「迷惑をかけたくない」という理由で、意識的に飲む量を減らしてしまう傾向があります。

水分が足りなくなっても、本人は「たいして飲みたくない」と感じているため、周囲が気づかないまま脱水が進みます。意識がはっきりしている段階では「大丈夫」と言うことが多いのも特徴です。

こまめに声をかけて飲んでもらうことが、高齢者の熱中症・脱水予防のいちばんの対策です。「のどが渇いてから飲む」では間に合いません。

パターン② 車中泊で「窓を閉めたまま」

プライバシーや防犯のために窓を閉め、エンジンを切って車内で過ごす。これが真夏の昼間に続くと、車内温度は急激に上昇します。

車は金属と樹脂で密閉された箱です。直射日光が当たると、車内温度は外気温より大幅に高くなることが知られています(詳細数値は条件によって異なりますが、エンジン停止・窓閉めの駐車車両では短時間で危険な高温になります)。

高齢者や小さな子ども、基礎疾患がある方が車中泊をする場合は、日中は日陰に停め、窓を開けるか換気をすることが重要です。感染予防の観点から換気できない環境はまずありませんので、積極的に外気を取り入れてください。

パターン③ 「発汗停止」は重症のサイン

通常、体が熱くなると汗をかいて体温を下げようとします。でも、脱水が進んで体の水分が足りなくなると、汗をかけなくなることがあります。

汗が出なくなると、体内に熱がこもります。皮膚が乾燥してほてっている状態で意識がぼんやりしている・呼びかけへの反応が鈍いのは、重症サインです。このサインが出たら、すぐに119番してください。

日差しを受ける日本庭園で涼む人たち。避難所でも日陰での休憩が熱中症対策の基本になる 避難所でも日陰は重要。直射日光を避け、風を通せる場所で過ごすことが熱中症の基本予防になる


「水だけ」では危ない——低ナトリウム血症のリスク

熱中症・脱水というと「水を飲む」と思いがちです。それは正しいのですが、一つ注意点があります。

大量に汗をかいた後に水だけを大量に飲むと、体内のナトリウム(塩分)濃度が下がりすぎることがあります。これを**低ナトリウム血症(水中毒)**といいます。重くなると頭痛・吐き気・けいれんなどを引き起こすことがあります。

だから「水と塩分を一緒に」が大切です。

車のインテリア。エンジンを切り窓を閉めた車内は直射日光で急速に高温になる危険がある エンジン停止・窓閉めの車内は急速に高温になる。車中泊では換気と日陰への駐車が命を守る


水分補給——何をどう飲むか

経口補水液(ORS)の役割

経口補水液(ORS: Oral Rehydration Solution)は、水・糖・塩分を適切なバランスで配合した飲み物で、体に吸収されやすい組成になっています。

市販の経口補水液(OS-1など)は薬局やコンビニでも手に入ります。ただし被災地では品薄になりやすいので、入手できたときに確保しておきましょう。

手元にない場合の代替として、「水1リットル+砂糖40g+塩3g」の組み合わせが参考として紹介されることがありますが、正確な計量が難しい環境では成分が偏るリスクもあります。可能であれば市販品を使うのが確実です。

スポーツドリンクは経口補水液よりも糖分が多く塩分が少ない製品が多いですが、水よりは補給に役立ちます。意識がしっかりしていて、自分で飲める状態なら、少量ずつ、こまめに飲むのが基本です。

飲ませてはいけない状況

意識がぼんやりしている・返事が不明確・うまく飲み込めない状態では、無理に飲ませないでください。

誤嚥(気道に液体が入ること)の危険があります。この状態はすでに重症です。すぐに119番通報してください。

水のボトルを飲む女性。自分で飲める状態なら少量ずつこまめに水分補給することが大切 意識がしっかりしていて自分で飲める状態なら、少量ずつこまめな水分補給が熱中症対策の基本


応急処置——まず「涼しくする・冷やす」

軽症〜中等症の熱中症(意識がある、自分で飲める)に対する応急処置の基本は、体を冷やして体温を下げることです。

効果的な冷却ポイント

太い血管が体表近くを走っている部位を冷やすと、血液が冷えて全身の体温を下げる効果があります。

  • 頸部(首の両側)
  • 腋窩(わきの下)
  • 鼠径部(太ももの付け根)

この3か所を優先して冷やしてください。保冷剤や氷をタオルで包んで当てるのが理想ですが、被災地では濡れタオルを当てて扇ぐだけでも体温を下げる効果があります。

日陰・換気・安静

まず直射日光が当たらない日陰に移す。次に風を当てる(うちわや扇子でもOK)。そして安静にさせる。この基本を続けながら、冷やしつつ水分を与えます。

氷が入ったバケツ。保冷剤や氷は首・わき・太もものつけ根など太い血管が走る部位を優先して冷やす 保冷剤や氷はタオルに包み、首・わき・太もものつけ根など太い血管が走る部位を優先して冷やす


これは家庭でできる経口補水液の準備

被災地や避難所では、市販品が手に入らないこともあります。下の写真のように、粉末を溶かすタイプの経口補水液補助製品もありますが、非常用備蓄として事前に準備しておくのが理想です。

水のボトルに粉末を溶かす様子。経口補水液は事前の備蓄があると被災地での水分管理がしやすくなる 経口補水液は災害時に品薄になりやすい。水と塩と砂糖の比率を家族で事前に確認しておくと安心


119番を呼ぶ判断ライン

次のサインがあれば、ためらわずに119番してください。

  • 意識がぼんやりしている・返事が変・名前を呼んでも反応が薄い
  • 体を触ると熱い(皮膚がほてっている)のに、汗をかいていない
  • 自分で水が飲めない
  • 呼びかけに応じない(呼びかけても目を開けない)

これらは熱中症の重症サインです。応急処置しながら、すぐに119番通報してください。

「救急車を呼んでいいかわからない」と感じたら、**#7119(救急安心センター)**に電話することもできます( https://www.fdma.go.jp/mission/enrichment/appropriate/appropriate007.html )。

ただし、上記のような重症サインが出ているときは、迷わず直接119番してください。#7119は軽症・中等症の判断に使うもので、意識障害がある場合は119番が先です。

夜の道路を走る救急車。熱中症の重症サイン(発汗停止・意識障害)が出たらためらわず119番する 発汗停止・意識がぼんやり・自力で飲めない——これらのサインが出たら迷わず119番。応急処置しながら待つ


高齢者を一人にしない

繰り返しになりますが、高齢者のおのどの渇きは信頼できないと覚えておいてください。

「のどが渇いていないから大丈夫」は、高齢者には当てはまりません。外から見て以下のような様子があれば、脱水が始まっているサインかもしれません。

  • 口の中が乾いている・唇がひび割れている
  • 肌をつまんで放すとしわが戻るのが遅い(ツルゴール低下)
  • 小便の量が減っている・色が濃い(濃い黄色・茶色)
  • ぼんやりしている・いつもより無口

避難所では、高齢者のご家族がいる周囲の方が、定期的に声をかけて水分をすすめるだけで、救急搬送を防げることがあります。助け合いが、文字通り命を救います。

屋外でくつろぐ高齢女性。高齢者は渇きを感じにくいため周囲の声かけと観察が脱水予防に不可欠 高齢者はのどの渇きを感じにくい。周囲が「飲んで」と声をかけ、様子を観察することが脱水予防の第一歩


家族の備えとして——今日できることと経済的な備え

今夜、家族で確認してほしいことをまとめます。

  • 水と塩を一緒に補給する——スポーツドリンクか経口補水液を確保する
  • 車中泊するなら換気と日陰を最優先に——窓を開けるか、エンジンをかけて冷房を使う
  • 高齢者に1〜2時間おきに声をかけて飲ませる——本人が「いらない」と言っても、少量ずつ
  • 発汗停止+意識障害=即119番——ためらわない

そして、もう一つ。

災害時の医療費や入院・療養中の収入減は、家計に大きな影響を与えます。熱中症の重症化(ICU管理が必要になるケースもあります)は、治療費も期間も決して軽くありません。

今回の熊本震度7のように、「まさかこのタイミングで」という災害はいつでも起きます。医療保険や家族の保障が、今の生活や家族構成に合っているか——この機会に一度見直しておくことが、長い目での備えになります。

グループの人々が黄色い帽子をかぶってベンチに座っている。避難所での助け合いと事前の備えが命を守る 避難所での助け合いと、家族の事前の備えが命を守る。水・塩・冷却グッズを今日確認しておこう


まとめ:被災地の熱中症・脱水、今日の確認事項

  • **WBGT(暑さ指数)**を環境省サイトで確認→ https://www.wbgt.env.go.jp/
  • 「のどが渇いてから飲む」では遅い。1〜2時間おきにこまめに飲む
  • 水だけ大量摂取は低ナトリウム血症のリスク。水+塩分(経口補水液が理想)
  • 車中泊は窓開け・日陰必須。エンジン停止・窓閉めは短時間で危険な高温になる
  • 冷やすなら首・わき・太もものつけ根の3か所を優先
  • 発汗停止+意識障害→即119番(迷ったら#7119)
  • 高齢者は渇きを自覚しにくい。周囲が積極的に声をかける

熊本の暑さはまだ続きます。

明日(Day4)は、**避難所でのエコノミークラス症候群(深部静脈血栓症・肺塞栓症)**について書きます。「じっとしているだけで危ない」という、あまり知られていない被災地特有のリスクです。長時間同じ姿勢で過ごしている方や、足がむくんできた方は、ぜひ明日の記事を読んでください。


参考とした一次資料

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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救急のリアル 編集部

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