2026年7月28日の熊本震度7から、今日で7日目です。
昨日(Day4)は、車中泊で最も怖いエコノミークラス症候群について書きました。今日は、避難生活が長くなるほど重くのしかかってくる、感染症の話をします。
大きな地震のあと、救急要請はまず外傷やケガで集中します。その波が落ち着き、避難所や車中泊の生活が数日〜1週間と続くころ、次に増えてくるのが感染症です。私は現場で、「揺れは生き延びたのに、その後の体調悪化で運ばれてくる」方を何人も見てきました。
感染症は、地震・津波に続く「第三の災害」とも言われます。今日は、被災地でとくに警戒したいノロウイルス・破傷風・レジオネラ肺炎の3つと、家族が今日からできる予防をお伝えします。
体育館などの避難所は、多くの人が身を寄せ、水も衛生資材も限られる場所。感染症は「揺れの後」にやってきます
なぜ震災で感染症が「第三の災害」になるのか
ふだんなら防げる感染症が、被災地では一気に広がります。理由は、感染症が起こりやすい条件が同時にそろってしまうからです。
① トイレ環境の悪化と断水 断水や下水の被害でトイレが十分に使えなくなると、衛生状態が悪化します。「トイレに行きたくないから」と水分や食事を控える人も増え、これは脱水だけでなく、便を介した感染の広がりにもつながります。
② 人の密集 避難所は、多くの人が限られた空間で寝起きします。咳やくしゃみ、嘔吐物を介して、ウイルスがあっという間に広がる環境です。
③ 手指衛生がむずかしい 水が貴重なため、手洗いが十分にできません。食事の前もトイレの後も、いつものように手を洗えないことが、感染の連鎖を生みます。
④ 傷の消毒がむずかしい 瓦礫の撤去や片付けでケガをしても、きれいな水や消毒液がすぐに手に入りません。土や汚れのついた傷は、破傷風などのリスクになります。
トイレ環境の悪化は、被災地の感染症で最初に問題になるポイントです
これは机上の話ではありません。東日本大震災では、被災地で報告された破傷風の一部が、瓦礫でのケガに関連した震災関連の症例でした。また、津波の泥水を吸い込んだことによるレジオネラ肺炎も報告されています(いずれも国立感染症研究所=現・国立健康危機管理研究機構の集計)。2024年の能登半島地震でも、避難所で胃腸炎や呼吸器の感染が問題になりました。「揺れを生き延びた後」の健康管理が、いかに大切かということです。
警戒すべき3つの感染症
① ノロウイルス(感染性胃腸炎)——避難所で最も広がりやすい
冬のイメージが強いノロウイルスですが、避難所のように人が密集し、手洗いが不十分な環境では、季節を問わず集団感染が起こり得ます。
症状は、突然の吐き気・嘔吐・下痢・腹痛です。多くは1〜2日でおさまりますが、こわいのは脱水と、周りへの感染の広がりです。とくに高齢者や子どもは、脱水から重症化しやすいので注意が必要です。
突然の嘔吐・下痢は、避難所ではあっという間に広がります。吐物の処理が明暗を分けます
吐いたもの・便の処理が、集団感染を防ぐ最大のポイントです。 ノロウイルスは非常に感染力が強く、アルコール消毒が効きにくいという特徴があります。厚生労働省は、吐物や便の処理・消毒には**塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)**を使うようすすめています。処理する人は使い捨て手袋・マスクをつけ、床などはペーパータオルで拭き取ってから消毒し、拭き取ったものはビニール袋に密閉して捨てます。
予防は、なんといっても手洗いです。水が貴重でも、トイレの後・食事の前・調理の前には、できるだけ流水と石けんで手を洗ってください。加熱調理する場合は、中心部までしっかり火を通すことも大切です。
脱水への対応として、少量ずつこまめに水分をとります。嘔吐がひどく水分をまったく受けつけない、ぐったりして反応が鈍い、尿が半日以上出ない——こうしたときは、我慢せず救護所や医療機関に相談してください。
② 破傷風——瓦礫のケガから、命に関わる
破傷風は、土の中などにいる破傷風菌が、傷口から体に入って起こる病気です。菌が出す毒素で、筋肉のけいれんや口が開きにくくなる症状が起こり、重症化すると呼吸ができなくなって命に関わります。
被災地は、破傷風のリスクが高い環境です。瓦礫の撤去や片付けで、釘・ガラス・木片などによる傷を負いやすく、その傷には土や汚れが入りやすいからです。深い傷や汚れた傷は、とくに危険です。
片付け作業のケガは、被災地で最も見落とされがちなリスク。軍手一枚でも守りは変わります
まず、傷の応急処置。 瓦礫などでケガをしたら、流水でよく洗い、土や異物を洗い流すことが基本です。汚れが残ったまま放置しないでください。
そして、ワクチン(破傷風トキソイド)の接種歴の確認です。 破傷風の予防接種は、最後の接種からおおむね10年で効果が弱まるとされ、汚れた傷を負ったときには、過去の接種歴や傷の状態に応じて追加接種が検討されます。ケガをしたら、できるだけ早く医療者に相談してください。
とくに知っておいてほしいのは、世代によっては基礎免疫がない可能性があることです。日本で破傷風を含むワクチンの定期接種が広く行われるようになったのは1968年ごろからで、それ以前に生まれた高齢の世代は、免疫を持っていないことがあります。「昔のことだからわからない」という方こそ、汚れた傷を負ったら早めに受診してください。
「小さな傷だから」と放置しない。流水で洗い、汚れた傷なら受診を
③ レジオネラ肺炎——入浴設備・ミストに潜む
レジオネラは、あまり知られていませんが、重症の肺炎を起こすことがある細菌です。土やほこり、そして水回りの設備に生息し、細かい水しぶき(エアロゾル)を吸い込むことで感染します。
感染源として注意されているのは、循環式のお風呂(追い炊き式・24時間風呂)、温泉、加湿器、シャワー、噴水、給湯設備などです。前に触れたとおり、東日本大震災では、津波の泥水を吸い込んだことによるレジオネラ肺炎が報告されました。被災地では、久しぶりに動かした給湯設備や、管理の行き届かない入浴設備が、環境によってはリスクになり得ます。
温泉や循環式のお風呂も感染源になり得ます。レジオネラは細かい水しぶき(エアロゾル)を「吸い込む」ことで感染します
レジオネラ肺炎は、高齢者・基礎疾患のある方・喫煙者などで重症化しやすいとされます。一方で、人から人へはうつりません。ですから、必要以上に入浴を怖がる必要はありません。大切なのは、設備を管理する側の衛生管理と、高熱・咳・息苦しさといった肺炎のサインを見逃さないことです。
避難生活で急な高熱や咳、息苦しさが出たときは、「ただの風邪」と決めつけず、救護所や医療機関に相談してください。
すべての感染症予防の土台は、手洗いです。水が貴重でも、要所では必ず
密集した空間では、マスク一枚が咳やくしゃみからの感染を減らします
高齢の家族ほど、体調の変化に周りが早く気づくことが大切。「まだ大丈夫」と我慢させないで、早めに救護所へ
揺れを生き延びた命を、その後の日々でも守り抜くために

