夏の現場で、繰り返し経験することがあります。
「本人は『大丈夫』って言ってたんです」
搬送先の病院で、ご家族がそう話してくださいます。
熱中症で救急搬送される方の多くが、高齢者です。そして本人が「暑い」「つらい」と訴えるケースは、思ったより少ない。
高齢者の熱中症は、本人の自覚症状が当てになりません。
これを知っているかどうかが、家族として早期に気づけるかどうかの分かれ目です。
私は現役救命士として20年、夏の熱中症対応を経験してきました。今日は、家族の方に知っておいてほしい「見落としやすいサイン5つ」と、その日から使える対応方法をお伝えします。
「暑くない」という言葉を信じてはいけない——それが高齢者の体の仕組みです
なぜ高齢者は「暑い」と感じにくいのか
まず、根本的な理由を理解してください。
高齢になると、体の中の温度を感じるセンサーが鈍くなります。
若い人なら「暑い」「汗が出る」「水が飲みたい」と感じる温度でも、高齢者は感じにくい。体温が上がっていても、本人には「暑くない」のです。
さらに、加齢とともに口渇感(喉の渇きを感じる感覚)も低下します。
体が水分を必要としているのに「喉が渇いていない」と感じてしまう。だから水を飲まない。脱水が進む。体温がさらに上がる——という悪循環が、知らないうちに進行していきます。
こうした体の特性を持つ高齢者を守れるのは、一緒にいるご家族や周囲の方だけです。
室温28度を超えると熱中症リスクが高まる——環境省・消防庁の基準より
家族が見落としやすい「熱中症5つのサイン」
サイン① ぼーっとしている・返事が遅い
普段と比べて、会話の反応が鈍くなっていませんか。
ぼーっとしている、呼びかけても反応が遅い、話が噛み合わない——これらは熱中症による脳への血流低下や意識レベルの低下を示している可能性があります。
「疲れているだけかな」と見過ごしがちですが、夏の日中・夕方にこうした様子が見られたら要注意です。
チェックポイント
- 名前を呼んで、すぐに「何?」と返ってくるか
- 今日の日付を言えるか
- 「今日は何食べた?」などの簡単な会話ができるか
サイン② 皮膚が熱い・赤い(でも汗が出ていない)
体温が上がると通常は汗をかきます。でも重症化すると、体の体温調節機能が壊れて汗が出なくなります。
皮膚が赤くて熱いのに汗が出ていない状態は、熱中症の重症サイン(III度)の可能性があります。
この状態になると、体の中でどんどん熱が蓄積されています。すぐに119番に電話してください。
一方、大量に汗をかいている状態は「体がまだ頑張っている」サインです。軽〜中等症の可能性が高く、涼しい場所に移動させて水分補給が急務です。
サイン③ 吐き気・頭痛の訴え
「気持ち悪い」「頭が痛い」という訴えが夏の屋内・屋外で出たとき、熱中症を疑ってください。
脱水が進むと血液が濃くなり、脳や内臓への血流が乱れます。吐き気・嘔吐・頭痛はその症状です。
高齢の方はこれらの症状を「年だから」と片付けてしまうことがあります。夏場は「いつからか?」「暑い場所にいたか?」を確認する習慣をつけてください。
サイン④ 水を飲みたがらない・飲むことを嫌がる
「お水飲んで」と勧めても、「いらない」「飲みたくない」と断られることがあります。
これは高齢者の口渇感低下による、典型的な行動パターンです。
喉が渇いていないのではなく、渇きを感じる機能が弱くなっているのです。
水を飲むことを嫌がっているときは、経口補水液(OS-1や市販のスポーツドリンクを薄めたもの)を少量ずつ、定期的に勧めることが有効です。一気飲みではなく、コップ半分を30分おきに、などの形で。
サイン⑤ エアコンをつけるのを嫌がる・消している
「電気代がもったいない」「そんなに暑くない」という理由でエアコンを使わない高齢者は多いです。
訪問したら部屋が暑くなっていたのに、エアコンがついていない——こういうケースが現場でもよくあります。
エアコンを使わないこと自体が、熱中症リスクの大きなサインです。
環境省と消防庁は、室温28度を超えたらエアコンの使用を推奨しています。本人が「暑くない」と言っても、温度計が28度を超えていればエアコンをつけてください。
「電気代がもったいない」より命の方が大事——エアコン使用を遠慮させない環境づくりが重要
5サインを見つけたら、どう動くか
サインを見つけたとき、何をすべきかを整理しておきます。
意識があって、会話ができる状態(軽〜中等症)
- 涼しい場所に移動させる(エアコンの効いた室内、または日陰)
- 衣服をゆるめる(首元・ベルトなどを緩める)
- 水分補給(経口補水液または薄めたスポーツドリンクを少量ずつ)
- 体を冷やす(首・脇の下・太ももの内側に冷たいタオルや保冷剤)
- 様子を見ながら、改善しなければ119番
15〜30分の対応で回復しない、または症状が悪化するようなら迷わず119番です。
呼びかけへの反応が鈍い・意識がない状態(重症)
すぐに119番してください。
この状態になると、ご家族だけでの対応には限界があります。
電話しながら、電話口の指示に従って体を冷やし続けてください。救急車が来るまでの間に何ができるか、119番のオペレーターが教えてくれます。
絶対にしてはいけないこと:意識がない・ぼーっとしている状態の方に、無理に水を飲ませること。誤嚥(気管に水が入ること)の危険があります。
重症と思ったら迷わず119番——119番は「緊急かどうか」を一緒に判断してくれます
今日から家族でできる「熱中症予防3つ」
サインを見つけてから動くのも大事ですが、そもそも熱中症にならないようにする予防がより重要です。
予防① 部屋の温度を「見える化」する
温度計を高齢の親の部屋に置いてください。
本人の体感を頼りにするのではなく、温度計が28度を超えたらエアコンをつけるルールを決めましょう。「暑くないから大丈夫」ではなく、「数字で判断する」仕組みを作ることが重要です。
スマート温湿度計(スマホで温度を確認できるもの)を使えば、離れて暮らしている場合でも室温を遠隔でチェックできます。
予防② 定時水分補給を習慣にする
「喉が渇いたら飲む」ではなく、時間を決めて飲む習慣をつけてもらうことが大事です。
「起きたとき、食事のとき、午前中、昼食後、夕方、就寝前」——1日6〜8回、コップ1杯(約200ml)ずつが目安です(厚生労働省推奨の1日水分摂取量:食事からの摂取を含めて約2〜2.5L)。
アラームをセットしてあげるか、テーブルにコップを置いておくだけでも習慣化しやすくなります。
予防③ 毎日の「様子確認」に熱中症チェックを加える
電話や訪問での「様子確認」に、夏の間だけでいいので以下の質問を加えてください。
✅ 今日は水分をちゃんと飲んでいるか
✅ エアコンはつけているか(または今の部屋の温度は?)
✅ 頭が痛くない・気持ち悪くないか
3つを確認するだけで、異変に気づける確率が大きく上がります。
電話での「様子確認」に水分・エアコン・体調の3点を加えるだけで早期発見率が上がる
まとめ——高齢の親の熱中症は家族の気づきが最初の防波堤
総務省消防庁の統計では、夏季の熱中症による救急搬送件数は年間9万件を超え、そのうち65歳以上の高齢者が約6割を占めています(2023年データ)。
高齢者本人の体の特性として、体温感覚・口渇感が低下することはどうしようもないことです。これは病気ではなく、加齢による生理的な変化です。
だからこそ、周りにいる家族が気づくしかありません。
今日から確認してほしい5サイン
- ぼーっとしている・返事が遅い
- 皮膚が熱い・赤い(特に汗が出ていない場合は即119番)
- 吐き気・頭痛の訴え
- 水を飲みたがらない
- エアコンをつけない・嫌がる
どれか一つでも思い当たる高齢のご家族がいる方は、この記事を読んだ今日から、少し意識を向けてみてください。
「大丈夫かな」と思ったら、まず#7119(救急安心センター)に電話してください。救急車を呼ぶほどか迷っているときに、電話で相談に乗ってくれます(一部地域を除く)。
「もしものとき」の備えを、保険の面からも
熱中症による重症化・長期入院は、突然やってきます。
高齢の親御さんが入院や手術を必要とする状態になると、医療費だけでなく、リハビリ費用・施設への転院費用が家族の負担になることがあります。
入院・介護への経済的な備えについて、この機会に一度見直してみることをおすすめします。
参考文献・出典
医療情報の正確性について:本記事の情報は執筆時点(2026年7月)の公的情報に基づきますが、医療判断は必ず医師にご相談ください。記事内容の誤りを発見された場合は、お問い合わせよりお知らせください。
※プライバシー保護のため、本記事はhiroの現場経験をもとに一般的な教育目的で作成しています。特定の事案を元にしたものではありません。
免責事項:この記事の情報は一般的な救急・予防知識の情報提供を目的としており、医療行為・医療診断の代替となるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、すぐに119番に通報してください。
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04(ambulance)Photo by YANGHONG YU on Unsplash


