上腹部の不快感が続いた後、血を吐く。本人がはっきり話せていても、その変化を「いつもの胃の調子」として見送らないことが大切です。今回は、妻から通報があった80代後半の男性の実事案を、個人が分からない形にして紹介します。
男性には糖尿病、高血圧、腎臓がんという背景が記録されていました。ただし、その持病が今回の出血の原因だったとは、この資料からは判断できません。持病を伝えることと、出血の原因を決めることは分けて考えます。

写真はすべてAI生成のイメージです。主画像は年代・性別に合わせた架空の人物、ほかは家族の備えを説明する既存のイメージです。実際の傷病者・妻・家族・住居・活動を再現していません。報告書や診断画面は掲載していません。
傷病名は「出血性胃潰瘍の疑い」でした
通報内容には、次のように記録されています。原文の年齢は年代幅へ置き換え、医療機関名をマスクしています。
[80代後半]男性、熱があり、食事が摂れていない。咳と黒色の嘔吐あり。糖尿病と腎臓がん(告知済み)で[医療機関名をマスク]へ掛かり付け。
資料では、数日前から上腹部の不快感が続き、その後に吐血した経過が確認できます。接触時はベッドで横になっており、意識は清明でした。本人からは、食後に不快感が増すとの説明がありました。
通報欄の表現は「黒色の嘔吐」です。一方、現場では暗い赤色の吐血が確認されています。この違いを、一方の説明が間違いだったとして消したり、同じ色に書き換えたりはしません。いつ、誰が、何を見たかを分けて残します。
搬送先の初診時傷病名と診断名の欄は、いずれも「出血性胃潰瘍の疑い」。中等症で入院中という記録です。ここでは「疑い」を外しません。内視鏡検査の結果、確定診断、実際の出血部位や入院後の処置、退院後の経過は、提供資料では確認できていません。

医学的には、胃の粘膜にできた潰瘍から出血する状態
米国の公的機関NIDDKの解説は、消化性潰瘍を胃や十二指腸の内側にできる傷として説明し、出血を合併症の一つに挙げています。胃潰瘍から出血する状態が、出血性胃潰瘍です。
ただし、吐血という症状だけで胃潰瘍に確定することはできません。今回も診断欄は疑いの段階です。「血を吐いたから胃潰瘍だろう」と、家庭で原因を一つに絞らないようにします。持病と今回の原因を分けて考えることは、血尿と尿閉があった事案でも大切にした視点です。
NIDDKの症状と原因の案内では、吐物に赤い血が混じることや、コーヒーかすのように見えること、黒いタール状の便、めまいや失神などは、合併症の可能性があり速やかな診察が必要な症状とされています。
上腹部の不快感だけでは原因を特定できませんし、強い痛みがなければ安全とも言えません。今回も、はっきり受け答えができる状態で吐血が確認されています。黒い便が見られた別の事案も、見える変化を医療者へ伝える視点で参考になります。
血を吐いたら、量を測り終わるまで待たない
消防庁の救急車利用マニュアルは、血を吐くことを、ためらわず救急車を呼んでほしい症状に挙げています。吐血したときは119番で状況を伝え、指令員の指示に従ってください。
量を正確に計ったり、原因を調べ終わったりしてから連絡する必要はありません。本人を一人にせず、意識や呼吸、顔色など、分かる様子を伝えます。「さっきまで話せていた」場合も、その後の変化があれば続けて知らせてください。

通報では、血を吐いたこと、いつ頃から具合が悪かったか、今の反応と呼吸を優先します。持病や薬の情報は分かる範囲で構いません。119番で伝えることの整理を普段から読んでおくと、話す順番を考える助けになります。




