今日は、受診した"あと"に悪くなった話をします。傷病名は一つに決まらず、「発熱と嘔吐のあとの意識障害」として候補を複数残したまま搬送した事案です。
この記事は、実際にうかがった事案をもとにしています。年齢は幅で、場所や日付は書きません。救急隊は診断をしません。候補は複数あり、この記事でも一つに決めていません。
前日の午後から、熱と嘔吐が続いていました(写真はイメージです)
先に、3つだけ
- 検査で「異常なし」と言われたことは、間違っていたわけではありません。時間がたって症状が変わることがあります
- 「若いから重くならない」という保証は、どの一次資料にも書かれていません。健康な人が急に眠り込み、そのまま目を覚まさないと書く資料もあります
- 本人が話せない状態でも、家族が伝えられることがあります。いつから、何度、最後にふつうに話したのはいつか——それが中心です
1. 傷病名——候補は複数のまま、搬送しました
通報したのは母親でした。20代後半の男性で、前日の午後から発熱と嘔吐が続いていたそうです。当日、いったん医療機関を受診しましたが、「検査で異常なし」と言われて帰宅しました。自宅で様子を見ているうちに悪化し、母親が119番しました。
私たちが着いたときの様子です。
- 呼びかけると目を開けますが、すぐに閉じてしまう状態(JCS10)
- 本人からは症状を聞けない状態でした
- 嘔吐あり(胃液のようなもの)
- けいれん・麻痺・失禁はなし
- おなかを触っても、筋肉がかたく防御する様子はありません
- 心電図は洞性頻脈、熱もありました
既往に急性脳症があるとのことでした。ただ、着いた時点の情報だけで再発かどうかを私たちが決めることはできません。ウイルス性または細菌性の髄膜炎・脳炎、脱水にともなう意識障害など、複数の候補が同時に浮かびました。三次救急対応の病院まで、38分でお運びしました。
MSD家庭版「脳炎」に、こう書かれています。
脳炎の症状が始まる前に、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛など消化器系の症状が起きることがあります。 (MSDマニュアル家庭版「脳炎」)
発熱と嘔吐が先にあり、そのあとに意識の変化が来る。今回の順番と重なります。ただ、この並びは脳炎だけのものではありません。同じ並びから複数の病気に行き着く——それが、一つに決められなかった理由です。
受診したときは「異常なし」でした(写真はイメージです)
2. 症状のサイン——「元気そうだったのに」は、資料にも書かれています
今回、いちばん引っかかったのは「検査で異常なし」から半日ほどで、本人と話せなくなったという経過でした。
MSD家庭版「急性細菌性髄膜炎」に、こんな一文があります。
急性細菌性髄膜炎は、健康な若者が軽い症状のみを呈して眠りに落ち、二度と目を覚まさないことがある数少ない病気の1つです。 (MSDマニュアル家庭版「急性細菌性髄膜炎」)
これは候補の一つについての記述で、今回の方がこの病気だと決めたわけではありません。ただ、「若いから」「元気そうだったから」が安心材料にならない病気が、資料にはっきり書かれています。
「髄膜炎に関する序論」にも「反応が鈍くなったり無反応になったりすることもあります」とあります。呼びかけて目を開けても、すぐに閉じてしまう——今回の所見と重なります。
「やさしくわかる病気事典:成人にみられる発熱」には、受診の目安がこうあります。
もしも発熱の他に、以下にあげる注意すべき徴候が1つでも当てはまる場合は、すぐに病院に行ってください。混乱など、思考能力に変化がある/頭痛や項部の硬直、またはその両方 (MSDマニュアル家庭版「やさしくわかる病気事典:成人にみられる発熱」)
「混乱など、思考能力に変化がある」——朝の受診のときにはなかったはずの徴候です。症状が増えたのなら、それは前の受診が間違っていたのではなく、時間がたって症状が変わったということです。
「元気そうだったから」は、安心材料にならないことがあります(写真はイメージです)
3. 受診の判断——Q助は「起き上がることができない」でも「いますぐ救急車」
消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」には、症状を選ぶ前の設問があります。「(いつもどおり)ふつうにしゃべれていますか? 声は出せていますか?」——「いいえ」を選ぶと、それだけで「いますぐ救急車」に進みます。本人から症状を聞けない状態そのものが、一つの判断材料です。
「発熱」の症状を選んだ場合の設問も見ておきます。
1.起き上がることができないですか? 2.強い頭痛があって吐いていますか? 4.頭痛があり、意識がもうろうとしていますか? 〔または〕 意識状態が悪いですか? (総務省消防庁「全国版救急受診アプリ(Q助)」ロジック本体、「発熱」の設問)
どの項目も、当てはまれば「いますぐ救急車を呼びましょう」です。症状名ではなく、見ればわかることだけが並んでいます。
消防庁リーフレット『救急車を上手に使いましょう』のおとなページでは、「頭」の欄に「突然の高熱」、別の「意識の障害」の欄に「ぐったりしている」があります。発熱と意識の変化は別々の欄に分かれ、今回はそのどちらも当てはまっていました。
「今日、病院に行ったばかり」でも、呼んでいい場面があります(写真はイメージです)
4. 家族へ——本人が話せないときも、伝えられることがあります
本人が症状を話せない状態のとき、家族が伝えられる情報は、検査より先に医師の判断を助けることがあります。
- いつから、発熱と嘔吐が始まったか
- 嘔吐は何度あったか
- 最後にふつうに話したのはいつだったか
- 今日、受診した病院と、そこで言われたこと
- 飲んだ薬(市販薬も含めて)
病名を当てるための質問ではありません。「受診で異常がなかった」という事実と、「そのあとに症状が増えた」という事実は、両方とも医師に伝える価値があります。どちらかを黙っている必要はありません。
「今日、病院に行ったばかりだから」とためらう家族は少なくありません。けれどもMSDの上の一文は、その徴候が当てはまるなら「すぐに病院に行ってください」と書いています。前に受診したかどうかは、条件に入っていません。
本人が話せない状態での家族の役割はこちらに、頭痛と吐き気の見分け方はこちらに、呼びかけへの反応の確かめ方はこちらに、発熱と首の硬さが重なる細菌性髄膜炎はこちらにまとめました。迷う段階なら♯7119もあります。
「いつから」「何度」「最後に話したのはいつか」——それを覚えている人が、家族にも必要です(写真はイメージです)
受診したことと、もう一度連絡することは、矛盾しません(写真はイメージです)

