今日は、「反応がない」の見きわめ方の話をします。傷病名でいうと脳出血の、その疑いです。
この記事は、実際にうかがった事案をもとにしています。年齢は幅で、場所や日付は書きません。救急隊は診断をしません。書く傷病名は、あくまで現場で疑ったものです。
深夜の巡回で見つかりました(写真はイメージです)
先に、3つだけ
- 家庭で確かめるのは、呼びかけまでで十分です。痛みを与えて反応を見るのは医師や救急隊の手順で、家族がまねる必要はありません
- 胸骨圧迫を始めたのは、間違いではありません。市民の手順に「脈を確認する」工程はなく、迷えばすぐ始めるのが原則です
- 本人が話せない状態のときほど、そばにいた人の情報が役立ちます。「最後にいつ元気だったか」は、検査より先に医師が知りたい情報です
1. 傷病名——疑われたのは「脳出血」でした
通報したのは、高齢者施設(グループホーム)の職員でした。深夜の巡回で、ベッドの上の70代後半の女性に反応がないことに気づいたそうです。最後に元気な姿が確認できていたのは、その約1時間前でした。
いびきのような呼吸をしていたため、職員は119番通報し、通信指令員の指示に従って胸骨圧迫を開始しました。
私たちが着いたときの数字です。
- 強い痛み刺激を与えても、まったく反応がありませんでした
- 血圧 229/122(搬送中は224/144)
- 瞳孔は左右とも4.0mm、対光反射(光を当てると瞳孔が小さくなる反応)はありませんでした
- 呼吸20回・努力呼吸、脈拍72〜84回、SpO2は93%(酸素投与後98〜99%)
- 熱はなく、けいれんもなし
首の脈(総頸動脈)は触れ、酸素の値も保たれていたため、私たちは胸骨圧迫を中止し、酸素投与に切り替えてお運びしました。
既往に高血圧、認知症、そして脳出血がありました。普段の身のまわりのことは、自分でできていた方です。
『MSDマニュアル家庭版』の「脳内出血」は、原因の最も多いものをこう書いています。
脳内出血の原因で最も多いのは以下のものです。慢性の高血圧(細い動脈がもろくなる) (MSDマニュアル家庭版「脳内出血」)
高血圧の既往と、229/122という数字。私たちが脳出血を疑った理由のひとつです。(頭痛のない脳内出血の記事もご覧ください)
1時間前まで、いつもと変わりなかったそうです(写真はイメージです)
2. 症状のサイン——「反応がない」を、医師はこう確かめます
『MSDマニュアル家庭版』の「昏迷と昏睡」に、医師がどう反応を確かめるかが書かれています。
患者に意識がない場合、医師はまず声をかけて起こそうとし、次に患者の腕や脚、胸、または背中を触って起こそうと試みます。これらの方法で患者が目を覚まさなければ、爪床を圧迫したり皮膚をつねったりして、痛みや不快感を伴う刺激を与えます。 (MSDマニュアル家庭版「昏迷と昏睡」)
呼びかける→触れる→痛みを与える、と段階を上げていきます。今回の方は、この最後の段階でも動きがありませんでした。
ただし、これは医師や私たちの手順です。家庭や施設で、痛みを与えて反応を確かめる必要はありません。呼びかけて反応がなければ、それで「反応なし」です。確かめ直している時間が、いちばん惜しい時間になります。
眼についても、こう説明されています。
正常な瞳孔は、暗い所では大きく開き(散大)、光が当たると小さくなります(収縮)。しかし、昏睡状態の人では、瞳孔が光に正常に反応しないことがあります。 (同)
「いびきのような呼吸」の見分け方は別の記事に書きました。
反応があるか、ないか。家庭で確かめるのは、そこまでです(写真はイメージです)
3. 受診の判断——迷ったときは、脈を探さずに119番
総務省消防庁のリーフレット『救急車を上手に使いましょう』は、高齢者ページの「意識の障害」の欄に、こう書いています。
意識がない(返事がない)またはおかしい(もうろうとしている) (消防庁リーフレット『救急車を上手に使いましょう』高齢者ページ)
消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」でも、入り口の設問に「しっかりと受け答えが出来ますか?」があり、「いいえ」なら症状の一覧を飛ばして「意識がおかしい」の画面に直行します。そこにある16個の項目は、どれを選んでも「いますぐ救急車を呼びましょう」という同じ結果です。本人の説明を必要としない設問です。
そして、救急蘇生法の指針2025(市民用)は、こう定めています。
「反応なし」と判断した場合はもちろん、反応があるかないかの判断に迷う場合、またはわからない場合も心停止の可能性を考えて、次の「3)119番通報をしてAEDを手配する」に進みます。 (救急蘇生法の指針2025 市民用)
同指針は、心停止でない人に胸骨圧迫をしても「重大な障害が生じたという報告はありません」とも書いています。手順に、市民が脈を確認する工程はありません。「反応があるか」と「普段どおりの呼吸か」の2つで判断します。職員が胸骨圧迫を始めたのは、この手順のとおりでした。到着後に脈とSpO2を確認して中止したのは専門的な評価が入ったからで、最初の判断が間違っていたわけではありません。
脈を探すより先に、119番でした(写真はイメージです)
4. 家族へ——伝える情報は、検査より役立つことがあります
MSD家庭版には、こんな一文があります。
知っていますか?昏睡の原因を特定する上で、家族や友人からの情報が、診断検査よりも役立つことがよくあります。 (MSDマニュアル家庭版「昏迷と昏睡」)
同じページには、聞かれる内容の例も並んでいます。
その他の症状(頭痛や嘔吐など)が現在または過去になかったか 最後に正常に見えたのはいつか いつもと違うものを食べたり、旅行したりしなかったか (同)
消防庁のリーフレットも、救急車が来たら伝える内容として次を挙げています。
事故や具合が悪くなった状況 救急隊が到着するまでの変化 行った応急手当の内容 具合の悪い方の情報(持病、かかりつけの病院やクリニック、普段飲んでいる薬、医師の指示等) (消防庁リーフレット『救急車を上手に使いましょう』)
今回、職員が伝えられたのは、「最後に元気な姿を見たのは何時ごろか」「発見時の呼吸の様子」「持病(高血圧・認知症・脳出血の既往)」でした。それだけで、現場での評価は組み立てやすくなります。「いつもどおりだったのはいつまでか」を、誰かひとりが覚えておく。家族が呼ばれる立場でも同じです。
119番と迷ったときの相談窓口は♯7119の記事に書きました。
「最後にいつ、いつもどおりだったか」——それをメモしておく人が、施設にも家にも必要です(写真はイメージです)
渡せる情報は、その場にいた人にしかありません(写真はイメージです)

