今日は、朝、家族の様子を見に行ったら、すでに心肺停止の状態だった——そのときの話をします。記録に残る傷病名は心肺停止。今回は蘇生も搬送もしない、不搬送という結末でした。
この記事は、実際にうかがった事案をもとにしています。年齢は幅で、場所や日付は書きません。救急隊は診断をしません。書けるのは、現場で確認されたことまでです。
その朝も、家の中はいつもどおりに見えました(写真はイメージです)
先に、3つだけ
- 夜のあいだに何が起きたかは、誰にも分かりません。発見までの時間の長さは、誰の落ち度でもありません
- 口頭指導を受けても体を動かせなかったのは「できなかった」のではなく、その時点で「もう蘇生の対象ではなかった」ということです
- 「明らかな死亡かどうか」を家族が見分ける必要はありません。迷ったら119番して、指示に従えばいいのです
1. 何が起きたか——心肺停止の状態で見つかりました
同居の息子さんが、朝、部屋の様子を見に行きました。呼びかけても返事がなく、寝室で倒れていました。すぐに119番通報し、電話の向こうの通信指令員から口頭で指導を受けました。
けれど、体はすでに硬くなっていて、体の向きを変えることも、胸を圧迫することもできませんでした。
最後にいつもどおりの姿を見たのは前日の夕方。発見までに約14時間が経っていました。持病は高血圧だけでした。
駆けつけた救急隊は明らかな死亡と判断し、蘇生を行わず、搬送もしませんでした。そのあと、現場は警察官に引き継がれました。なぜ心臓が止まったのかは、分かりません。死因を調べるのは、私たちの仕事ではありません。
「返事がない」——家で見つかる心肺停止は、たいていここから始まります(写真はイメージです)
2. 家族が見たものと、救急隊が確かめたこと
家族が見たのは、「返事がない」「体が硬い」という2つでした。口頭指導を受けながら体位を変えようとしても、胸を圧迫しようとしても体が動かせなかった——これはためらいでも、失敗でもありません。
『救急蘇生法の指針2025』は、119番通報のあとに行われる口頭指導について、こう説明しています。
通信指令員は、あなたや応援に来てくれた人が行うべきことを指導してくれます。(中略)「胸骨圧迫ができますか」とたずねられるので、自信がなければ指導を求め、落ち着いてそれに従ってください。その際、電話のスピーカー機能などを活用すれば、両手を自由に使える状態になり、指導を受けながら胸骨圧迫を行うことができます。 (救急蘇生法の指針2025 市民用)
指導どおりに動けなかったのではありません。指導が届く前から、体の状態はもう変わっていました。
救急隊が確かめたのは、呼吸・脈・心電図の波形、そして体の状態でした。「明らかな死亡」と判断するのは救急隊や医師の仕事であって、家庭で見分ける基準として覚える必要はありません。
いつもと変わらない朝の食卓でした(写真はイメージです)
3. 119番したあと、どう進むのか
「呼吸をしていない」「返事がない」——そう思ったときに、家庭でできる判断はひとつです。119番することです。
消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」は、症状を選ぶ画面よりいちばん最初にこう確認します。
呼吸をしていない。息がない。 脈がない。心臓が止まっている。 冷たくなっている。
どれかに当てはまれば、症状の入力は飛ばされ、「いますぐ119番に電話してください」という結果に直行します。難しい判断は、何ひとつ求められていません。
『救急蘇生法の指針2025』も、同じ考え方です。
「反応なし」と判断した場合はもちろん、反応があるかないかの判断に迷う場合、またはわからない場合も心停止の可能性を考えて、次の「3)119番通報をしてAEDを手配する」に進みます。 (同)
「迷う場合も」進んでいい、と書かれています。判断を先に済ませてから電話するのではなく、迷ったまま電話していいのです。
駆けつけた救急隊は呼吸・脈・心電図を確かめます。明らかな死亡と判断される場合、蘇生を行わず、搬送もしません。総務省消防庁は、この結末を「不搬送」と呼び、こう定義しています。
不搬送(傷病者又はその関係者が搬送を拒んだ場合や明らかに死亡している場合又は医師が死亡していると診断した場合に医療機関等へ搬送しないものをいう。) (総務省消防庁『令和7年版 救急・救助の現況』)
「搬送しない」という結末も、制度の中に位置づけられています。令和6年中の救急出動のうち、不搬送は98万67件(全体の12.7%)でした(同書)。このときは、そのあと現場を警察官に引き継ぎました。ご家族が疑われたからではありません。そこから先の手続きについては、家庭向けに確かめられる資料が見つからなかったので、この記事では説明しません。不搬送については別の事案の記事もありますが、そちらは軽症で搬送を辞退したケースで、今回とは違う形です。
確かめるのは、駆けつけた救急隊です(写真はイメージです)
4. 家族へ
① 夜のあいだのことは、誰にも分かりません
約14時間という時間の長さを、責任として受け取らないでください。見に行く回数を増やせば防げた話ではありません。
② 「できなかった」ではなく、「もう、その時点ではなかった」ということ
口頭指導を受けても体位を変えられず、胸骨圧迫もできなかった——それを、やり損ねた、と受け取らないでください。手を出せなかったのではなく、手を出す段階が、もう過ぎていたのです。普段どおりの呼吸の見分け方はこちら、家族が口頭指導を受けて胸骨圧迫をした事案はこちらに書きました。
③ 迷ったら、119番していいんです
死斑や体の硬さを、家族が見分ける必要はありません。判断するのは、駆けつけた救急隊と医師の仕事です。「様子がおかしい」「返事がない」——それだけで電話する理由になります。消防庁のリーフレットも、高齢者の項目にこう挙げています。
意識がない(返事がない)またはおかしい(もうろうとしている) (総務省消防庁『救急車を上手に使いましょう』・高齢者ページ「すぐ119番」の症状)
④ 前日の夕方、元気だった——それを覚えていたことに意味があります
今回、家族が伝えられたのは「最後に見たのはいつか」でした。この一言は現場にとって大切な情報になります。時刻を伝える意味はこちらにも書きました。
「最後に見たのはいつか」——それが、そのまま情報になります(写真はイメージです)
責められるべき人は、どこにもいません(写真はイメージです)

