今日は、地震のあとにだけ起きやすい、命に関わる病態の話をします。傷病名でいうとクラッシュ症候群(圧挫症候群)です。
この記事は、2026年7月28日の熊本の地震の直後に書いたものを、9月17日に書き直しました。当時の記事は長すぎて、いちばん大事なことが埋もれていたからです。
消防庁の報告によると、地震は令和8年7月28日16時27分に発生し、熊本県の宇城市・氷川町で最大震度7。16時29分には有明・八代海に津波注意報が出され、18時10分に解除されています。消防庁は「令和8年熊本地震」として、9月9日の第64報まで被害の報告を更新しています。
地震のあと最初に開けるのは、玄関の扉です(写真はイメージです)
先に、3つだけ
- 長く挟まれていた人は、助け出した直後に急変することがあります。元気に話していても、です
- 救出後は尿の色を見てください。東京消防庁は「暗赤色の尿」が出たら速やかに受診、と書いています
- 地震のときは扉を開ける。火事から逃げるときだけ閉めます
1. 傷病名——「クラッシュ症候群(圧挫症候群)」とは
日本救急医学会の用語解説です。
長時間の四肢の圧挫,長時間の運動制限あるいは股関節や肩関節における異常屈曲などにより発生する症候群。(中略)細胞内から血管内へカリウム,リン酸,ミオグロビン,CPKなどが流出して高K血症,高CPK血症,急性腎不全 (日本救急医学会 医学用語解説集「圧挫症候群」)
東京消防庁は、もっと家庭向けの言葉で書いています。
がれきなどの重いものに腰や腕、腿(もも)などが長時間挟まれ、その後、圧迫から解放されたときに起こります。(中略)救助される時に圧迫されていた部分が解放されると、血流を通じて毒素が急激に全身へ広がり、心臓の機能を悪化させて死に至る場合があります。また、例え、一命をとりとめたとしても、その後に腎臓にもダメージを受け、腎不全で亡くなってしまう場合もあります。 (東京消防庁「第10章 救助・救出訓練の指導」4 クラッシュシンドローム)
挟まれている間ではなく、助け出したときに起こる。ここがほかのけがと違うところです。
阪神・淡路大震災では、内閣府の教訓資料によると「挫滅症候群の患者は372例、うち50例(13%)が死亡」しました(厚生省研究班の調査)。同じ資料は、「初期段階の全身症状が良いために見過ごされ、治療が遅れた例もあった」と書いています。
「元気そう」は、安心の理由になりません(写真はイメージです)
2. 症状のサイン——挟まれていても、普通に話せることがあります
内閣府の資料の「全身症状が良いために見過ごされ」が、この病態のいちばん怖いところです。挟まれている本人が、ふつうに会話できていることがある。だから周りも「大丈夫そうだ」と判断してしまいます。
東京消防庁は、救出したあとに見るべきサインをこう書いています。
長時間、身体の一部分であっても圧迫が加わった場合には、全身の症状が軽く見えても、暗赤色の尿が出たり、腫れたり、感覚がなくなることがあったら、速やかに医師の診察を受けることが必要です。
見るのは3つ。尿の色、腫れ、感覚。とくに尿の色は、本人に聞かなくても家族が確かめられます。
尿の変化と腎臓の関係は、今朝の記事「熱が3日続く人の『尿の量』を見ていますか」でも書きました。急性腎不全は、地震の現場でも起きる病気です。
はきものが1足あるだけで、夜の避難が変わります(写真はイメージです)
3. 避けるには・受診の判断——引き出さない、時間で安心しない
不用意に引き出さない
東京消防庁は、救出の仕方にもはっきり注意を書いています。
救出の際には、不用意に引きずり出したり、負傷者の意思を無視して急激に動かさないように注意しましょう。
長く挟まれている人を見つけたら、まず119番し、「どのくらいの時間、挟まれているか」を伝えてください。医療者側は、助け出す前から備える必要があるからです。
「2時間以内なら大丈夫」ではありません
よく「2時間以上挟まれると危ない」と言われますが、この数字は公的資料で確認できませんでした。消防庁の検討会資料には、逆向きの注意があります。
短時間でも起こりうるため、圧迫時間のみで判断しないように注意する (消防庁 検討会資料「挫滅症候群」)
時間が短いから安心、とは言えません。救出後に尿の色・腫れ・感覚を見て、どれかおかしければ受診です。
最初の1日が重い
東京消防庁は、阪神・淡路大震災での救出者の生存率を、当日80.5%、1日後28.5%、2日後21.8%、3日後5.9%と紹介しています(出典:『阪神・淡路大震災活動記録誌』)。地域で早く助け出すことの重さを示す数字です。
停電の夜は、足元と手元を照らすものが先です(写真はイメージです)
4. 家族へ——今夜できること
① 地震のときは扉を開ける。火事から逃げるときだけ閉める
消防庁の防災ページ「地震に自信を」には、こう書かれています。
揺れを感じたら、玄関などの扉を開けて非常脱出口を確保しましょう
建物がゆがむと扉が開かず、閉じ込められることがあるからです。ただし揺れている最中に走らないこと。身を守るのが先です。
一方、火事が起きてそこから逃げる瞬間は、扉を閉めて煙と炎を遮ります。「開けておく」のは逃げ道の確保、「閉める」のは逃げ切るとき——場面が違います。
② 枕元に、家族全員分のはきものを
ここは公的資料ではなく、救急救命士としての私の実感です。地震のあとの床には、割れた食器やガラスが散ります。停電していれば見えません。足をけがすると、逃げられなくなります。スリッパでもかまいません。今夜、寝る場所のすぐ横に置いてください。
③ 出血は、強く・直接・押さえ続ける
『救急蘇生法の指針2025(市民用・解説編)』は、傷にガーゼやハンカチ、タオルを当てて上から直接押さえる方法(直接圧迫止血法)について、こう書いています。
救急隊が到着するまで出血部位をしっかり押さえつづけてください。
押さえても止まらないときの理由も、同じ指針に書かれています。「圧迫位置が出血部位からずれていたり、圧迫する力が弱い場合があります」。東京消防庁は「はじめに当てたガーゼやタオルなどは外さないでください」としています。血がにじんだら、外さずに上から布を足してください。
他人の血に触れることについても、指針は具体的です。
止血の際に血液に触れて救助者が感染症にかかる危険はわずかですが、念のために、可能であれば救助者はビニール手袋を着用するか、ビニール袋を手袋の代わりに使用するとよいでしょう
レジ袋でかまいません。手袋を探している時間はありません。
④ 安否確認は171で
7月28日の地震では、NTTが16時31分に災害用伝言ダイヤル(171)の運用を始めています。使い方と、電話がつながらないときの考え方は災害時の安否確認の記事にまとめました。
止血は、特別な道具より押さえ続けることです(写真はイメージです)
余震の夜ほど、枕元の備えが効きます(写真はイメージです)

